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2015年3月25日水曜日

頭蓋内血管狭窄に対する治療

頭蓋内血管狭窄(ICAS)は白人における脳梗塞の5-10%, 黒人におけるTIA, 脳梗塞の15-29%, アジア人における脳梗塞の30-50%の原因を占める
 高血圧, 高脂血症, 糖尿病, 喫煙がリスクとなるが, 中でも脳梗塞再発のリスクに最も関連性が高いのは高血圧と高コレステロール血症.

 ICASによる脳梗塞は, 低灌流性, A to A塞栓, BADのパターン, もしくはその混合がある
(Lancet Neurol 2013; 12: 1106–14)

頭蓋内血管狭窄(ICAS)ではステント留置の効果は証明されておらず、むしろ脳梗塞リスクとなるため、抗血小板薬を使用する。

ステント留置 vs 内科的治療の比較
SAMMPRIS trial (N Engl J Med. 2011 Sep 15;365(11):993-1003.) (Lancet 2014; 383: 333–41)
 TIA, strokeで頭蓋内動脈に70-99%狭窄を認める症例のRCT
 内科的治療 vs 内科的治療 + PTAS群で30d予後を比較.
 PTAS; percutaneous transluminal angioplasty and stenting.(wingspan stent systemを使用)
内科的治療はASA325mg+Clopidogrel75mg(~90d), sBP<140mmHg (DM患者は<130mmHg), LDL-Chol<1.81mmol/L, リスク因子の治療.
アウトカム: StudyはN=451の時点でPTAS群の方が有意に脳梗塞, 死亡率が高値となり, 中止された. その後の長期フォロー(~54ヶ月)でも有意差を持ってステント群で脳梗塞リスクが上昇。

他のステントデバイスではどうかというと、
Balloon-Expandable stentのRCT: VISSIT trial (JAMA. 2015;313(12):1240-1248. )
 症候性の頭蓋内血管狭窄(>70%)患者を対象としたRCT
 Balloon-Expandable stent留置群 vs 内科治療のみの群で比較.
 Studyはステント群でより脳梗塞リスクが増加したため, 途中で中断. N= 112で終了した.

内科的治療: アスピリン vs ワーファリンの比較
WASID trial: 50-99%のICASが原因の梗塞, TIA患者を対象としたDB-RCT.
 Warfarin(INR 2-3) vs ASA 1300mg/dに割り付け, 比較.
 N=569, 平均フォロー期間1.8yの時点でtrialは中断.
 Warfarin投与群で有意に脳出血, 死亡リスクが上昇.
 脳梗塞リスクは両者で有意差なかった.

ちなみにWASIDのサブ解析では、脳底動脈狭窄、TIA患者、早期発症例ではワーファリンの方が有用な可能性があるが、有意差はない。(NEUROLOGY 2006;67:1275–1278)

これらを踏まえた治療推奨: (Lancet Neurol 2013; 12: 1106–14)

2015年3月11日水曜日

どの大きさの膿瘍ならドレナージすべき?

膿瘍はすべからくドレナージしたほうが良いに決まっている。
それは理解した上で、
なかなかドレナージしにくい部位; 肝膿瘍や腎膿瘍や、脳膿瘍、腹腔内膿瘍などにおいて
どのサイズまでならば抗生剤で押し切れるかというのは難しい問題。

例えば、
脳膿瘍ならば2.5cm以上では穿刺吸引が推奨されるが、そのエビデンスはない。(N Engl J Med 2014;371:447-56.)

硬膜外膿瘍ならば神経圧迫がある場合はデブリ、ドレナージすべき。

憩室炎で膿瘍を認めた場合は4cm以上ならばドレナージを考慮すべき。(NEJM 2007;357:2057-66)

などの推奨はある。

古いStudyであるが、
465例の膿瘍患者(主に肝臓, 脳, 腎臓)において, ドレナージをせず、抗生剤のみで治療したCase reportのreview. というものがある (Clinical Infectious Disease 1996;23:592-603)
膿瘍部位と抗生剤のみでの治療成功率

全体
治療成功率
肝膿瘍
176例
81.2%
脳膿瘍
143例
89.5%
腎膿瘍
55例
80.0%
硬膜外膿瘍
44例
90.9%
眼窩骨膜下膿瘍
19例
94.7%
脾膿瘍
17例
88.2%
膵膿瘍
6例
100%
心臓, 弁膿瘍
5例
100%
精嚢膿瘍
1例
100%
治療失敗のリスク因子は,
  ≥5cmの膿瘍 OR 37.7[2.1-691]
 多数菌の感染 OR 5.2[1.54-17.5]
 Gram陰性菌 OR 3.4[1.3-8.8]
 抗生剤投与期間<4wk OR 49.1[6.2-388]
 アミノグリコシドのみで治療 OR 11.8[2.1-65.7] であった。
 複数の膿瘍は治療失敗のリスク因子とはならない


このデータを元に、<5cmの腎膿瘍49例を抗生剤のみで治療したStudyがあり、
(平均3.6cmの膿瘍で、その50%が大腸菌が原因) その前例が抗生剤で治療可能であったという報告もある。(Yonsei Med J 51(4):569-573, 2010)

個人的な経験でも刺しにくい場所の腎膿瘍とか、多房性の肝膿瘍を長期間の抗生剤で押し切れたことも少なからずある。
肝膿瘍や腎膿瘍ではこの5cmという大きさを一つの指標と考えても良いのかもしれない。

ただしエビデンスレベルはこの程度しかないということは認識しておく必要があるでしょう。
当然リスクが少なく刺しやすいところならば当然刺すべきですけども!

2015年3月9日月曜日

高齢者の脱水所見の前向きStudy

ERを受診した高齢者(平均78±9歳) 130例のProspective study
 受診して30分以内に7つの身体所見と尿の色, 尿比重, 唾液分泌速度, 唾液浸透圧を評価.

 脱水のReference standardを血漿浸透圧 >295mOsm/kg, BUN/Cr比 >20とした時の各所見の有用性を評価.
(JAMDA 16 (2015) 221-228)

身体所見の脱水に対するLR
所見
LR+
LR−
sBP<100mmHg
6.0[0.7-54.2]
0.9[0.8-1.0]
HR>100bpm
1.0[0.5-1.9]
1.0[0.8-1.2]
粘膜乾燥
1.1[0.7-1.6]
1.0[0.7-1.3]
腋窩の乾燥
1.3[0.8-2.0]
0.9[0.7-1.2]
ツルゴール低下
1.3[0.8-2.0]
0.9[0.6-1.1]
眼球の陥凹
1.2[0.5-2.8]
1.0[0.8-1.1]
CRT>2秒
1.0[0.5-2.0]
1.0[0.8-1.2]

あまり有用な所見がない。
有用と思われていた腋窩の乾燥所見も尤度比は有意差がない結果。

尿比重や尿の色も有用性は低く, 最も有用性の高い検査は唾液浸透圧.

唾液の浸透圧というものはどの様に測定したらいいのかよくわかりませんが、
唾液の浸透圧は脱水患者では1.5倍ほどとなるため、唾液の粘性が増すという病歴は高齢者の脱水評価に有用なのかもしれない。

2015年3月5日木曜日

過換気誘発による眼振の評価

過換気誘発による眼振の評価 (Hyperventilation-induced nystagmus: HIN)

過換気では血液pHの上昇とイオン化Caの低下を誘発
 これにより小脳, 内耳の血流の低下と,  Hb−酸素解離曲線が左方に移動し, 組織酸素濃度の低下が起こる
 また, 中耳と頭蓋内圧の低下も誘発する
 従って中枢性病変がある場合に眼振が誘発されやすい
 過換気誘発性眼振は注視により容易に抑制されるため, フレンツェルメガネやvideo-oculographyを使用して評価する.
(Acta Otorinolaryngologica Italica 2011;31:17-26)

HINの誘発方法: 過換気は70秒間、深く早い呼吸を促す
 眼振は過換気終了から1分以内に緩徐相が5度/秒以上の速さの眼球運動が5秒以上生じる場合に定義
急性前庭神経炎のHINの評価は
 誘発なし, 非誘発時の眼振と変わりなし >> 陰性
 非誘発時の眼振が増強 >> Paretic pattern(麻痺性パターン)
 非誘発時の眼振が抑制 >> Excitatory pattern(興奮性パターン)
 非誘発時の眼振が反対方向性へ >> Strongly excitatory pattern
 麻痺性パターンは中枢の代償機能を抑制することで生じる.
 麻痺性パターンは長期間認められ、数カ月〜数年持続すこともある
 興奮性パターンは過換気より末梢神経の興奮性が上昇することで生じる. 急性期で多く, 発症20日程度で消失し, 麻痺性パターンとなる.
聴神経腫のHINの評価は
 眼振の誘発なし >> 陰性
 急速相が患側 >> Excitatory pattern
 急速相が健側 >> Paretic pattern
 急速相が初期には健側、その後30−40秒後に患側 >> Biphasic pattern
(Curr Opin Otolaryngol Head Neck Surg 2013, 21:487 – 491 )


各疾患におけるHIN陽性率 (Acta Otorinolaryngologica Italica 2011;31:17-26)
疾患
陽性率
疾患
陽性率
術前聴神経腫
11/12(91.7%)
代償性前庭神経炎
33/89(37.1%)
術後聴神経腫
7/9(77.8%)
両側性前庭神経障害
1/5(20%)
多発性硬化症
9/12(75%)
片頭痛関連めまい
36/188(19.1%)
小脳疾患
9/11(72.7%)
血管性めまい症
27/152(17.8%)
急性前庭神経炎
39/54(72.2%)
BPPV
24/455(5.3%)
神経血管圧迫
3/5(60%)
Chronic subjective dizziness
0/23
迷路瘻, SCDS
11/20(55%)
未診断のめまい
19/74(25.7%)
メニエル病
35/93(37.6%)
全体
263/1202(21.9%)

橋小脳角腫瘍性病変 33例と片側末梢性前庭神経障害 145例(発症7d以内が47例)でHINを評価. (Neurology® 2007;69:1050–1059 )
 橋小脳角腫瘍は聴神経腫 23, 髄膜腫 7, epidermoid cyst 2,  Jugular foramen schwannoma 1例.
 HINは暗くした部屋で, 座位の状態で1秒に1回の深呼吸を30秒行い、その後 1分間評価する(video-oculographyを使用).
 橋小脳角の腫瘍ではHIN陽性が82%
 一方で片側性前庭神経障害では34%. 
 特に慢性の前庭神経障害ではHINは1%のみであり, 慢性のめまい, 難聴において末梢性か中枢性かの評価にHINは使用できる。
聴神経腫 49例と, 片側性感音性難聴 53例でHINを評価 (Eur Arch Otorhinolaryngol. 2013 Jul;270(7):2007-11.)
 HINは感度65.3%、特異度98.1%で両者の鑑別に有用であり, カロリックテスト, Auditory brainstem responseよりも診断能は良好
聴神経腫 45例, 慢性前庭神経炎 30例, 健常人20例で評価 (Otol Neurotol. 2015 Feb;36(2):303-6.)
 聴神経腫では88.9%で陽性, 慢性前庭神経炎では40%で陽性, 健常人では陽性者なし.
HIN陽性ならば聴神経腫を疑うが, なくても否定は困難であるし, 末梢性でも出現するためベッドサイドで明確に区別することは難しい。
HINがあれば迷わずMRIをチェックということはわかった。