ページ

2014年6月30日月曜日

Burning Mouth Syndrome (BMS)

Burning Mouth Syndrome
(Med Oral Patol Oral Cir Bucal. 2011 Mar 1;16 (2):e144-8.) (Med Oral Patol Oral Cir Bucal. 2010 Jul 1;15 (4):e562-8.)
口腔内, 顔面に器質的異常がないが, 焼ける様な違和感, 疼痛を自覚する病態
BMSの診断criteria;
 常時違和感が持続し, 味覚障害を合併することもある. 気分障害を合併することもある.
 疼痛の好発部位は舌尖端, 辺縁.

有病率は0.7-4.5%と幅広い.
 男性例では20-39歳でBMSは認めず, 40歳台で0.7%, 60歳台では3.6%.
 女性例では20歳台では認めず, 30歳台で0.6%, 60歳台では12.2%まで上昇する.

BMSには3タイプある
Type 1; 徐々に増悪する疼痛を呈する.
 起床時は疼痛は無く, 日中に増悪する. 
 BMSの35%を占め, 栄養障害に由来することが多い.
Type 2; 常時持続する疼痛で睡眠も障害される.
 BMSの55%を占め, 精神疾患を伴うことが多い.
Type 3; 間欠的な疼痛で, 部位も非特異的.
 BMSの10%を占め, アレルゲン暴露との関連が多い.

BMSのEtiology; 精神疾患, 内分泌障害, 神経系の問題の3つ
 あと忘れていけない薬剤性.

精神疾患; うつ病や不安神経症にて疼痛閾値が下がり, 軽度な刺激を違和感や疼痛として捉える機序.
 BMSを有する群は他の群と比較してうつ病や不安神経症を合併する率が高いとの報告もあり.
内分泌疾患; 中年〜高齢女性にBMSが多く, 加齢に伴うエストロゲン, プロゲステロンの減少で粘膜が乾燥し, 閉経に伴う精神症状も相成り, BMSを生じる機序.
神経疾患; 中枢, 末梢神経障害に伴う神経痛でBMSを生じる機序. 三叉神経痛を合併する例も報告されている.

BMSの症状を6ヶ月以上認め, 他の疾患が除外された56名の評価. Clin J Pain 2010;26:528–532
 他の疾患; 歯牙の問題, 代謝疾患, 口腔内感染, ビタミン欠乏, 神経症を来す他の疾患.
 56名中 51名で舌生検を行い, また, 精神疾患も評価.
 BMSをClassic BMSと舌先のみの疼痛を呈する “Pain-in-the-tip syndrome”に分けて舌表皮への神経分布密度を比較すると, 前者の方が有意に密度が低下.
 また, 後者の方がうつ病, 不安神経症が多く, 味覚障害も少なかった.
BMSと鑑別が必要な疾患 Int J Oral Sci, 2(1): 1–4, 2010
舌へ病変を生じる疾患;
 Lichen planus, lichenoid reactions, benign mucos membrane pemphigoid, pemphigus and migratory glossitis等.
 他に, 糖尿病, 甲状腺機能低下症, 鉄, 亜鉛欠乏, ビタミンB(特にB12)欠乏のチェックは重要.
 膠原病ではSjogren症候群が大事.
BMSの治療
 抗うつ薬が治療となり得るが, 口渇感が増悪する可能性もあり, 注意.
 疼痛が強ければPregabalinといった治療もあり
 クロナゼパムは外用, 内服双方可.(国内は内服のみ)
 

Otolaryngol Clin N Am 44 (2011) 205–219



舌の所見

舌の所見

舌の解剖 (Dermatol Clin 21 (2003) 123–134)
舌は中心溝にて左右に分けられ, 中心溝は尖端からForamen cecumまで伸びる.
 Foramen cecumは甲状腺と同じ組織由来.
 Foramen cecumはV字に溝を形成, sulcus terminalisと呼ばれ, 前方2/3と後方1/3を分ける溝.
 前方2/3は第一鰓弓から発生し, VII神経に支配される.
 後方1/3は第二, 三鰓弓から発生し, IX神経に支配される.
舌の表面は乳頭で形成されている.
 乳頭は味覚と咀嚼に関連.
 乳頭は舌前方2/3に2種類, Filiform papillaeとFungiform papillaeがある.
 Filiform papillae; 1-2mmの小さな乳頭で味覚受容体はもたない. 最も多い. 咀嚼や舐める行為に関連する.
 Fungiform papillae; 尖端と側面に多く存在する乳頭. 量は少ない. 赤色でドーム型の乳頭.
 Circumvallates papillae; Sulcus terminalisに存在する. FungiformとCircumvallate papillaeが味覚受容体を有する.
舌の後方には乳頭は無く, 扁桃やリンパ組織, ムチン分泌線, 薄い粘膜組織が存在する.
舌の異常所見色々 (Am Fam Physician. 2010;81(5):627-634)
Condition

所見
治療
コメント
Median rhomboid glossitis
正中菱形舌炎
滑らかで, 光沢を帯びた発赤.
境界明瞭, 菱形のプラーク.
通常無症候性だが, 灼熱感や
ヒリヒリ感があることもある.
正中上に生じる
抗真菌薬
外用
カンジダ症
のことが多い
Atrophic glossitis
萎縮性舌炎
赤色, ピンクの粘膜.
滑らかで, 光沢を帯びる.
栄養障害
薬剤性
, VitB12,
ナイアシン,
リボフラビン
葉酸欠乏
Fissured tongue
亀裂舌
深い溝を形成.
炎症や食物残渣の貯留で
悪臭, 色の変化が認められる
清潔維持
ダウン症
乾癬, シェーグレン,
Melkersson-Rosenthal syndrome
Geographic tongue
地図状舌
蛇行状, やや隆起し,
色変化を認める境界
治療必要無し.
ステロイド外用,
抗ヒスタミン外用
亀裂舌に伴う
喫煙に関連.
Hairy tongue
毛舌
乳頭の過形成と色変化
(
白色, 黒色)
清潔維持
タバコ, 不衛生
抗生剤に関連
Condition

所見
治療
コメント
Oral hairy leukoplakia
口腔毛状白板症
舌の側面に
白色の毛状所見を認める
抗ウイルス薬
EBV感染
免疫不全やHIV関連
Lichen planus
扁平苔癬
網様, 白色, レース様の所見
浅い散在した潰瘍, 紅斑
治療必要無し
ステロイド外用
カンジダのチェック
診断には生検必要
Linea alba
白線
舌の側面が肥厚し,
そこに細い白線を認める
治療必要なし
舌咬傷で生じる
Leukoplakia
白板症
白色のプラークが付着
経過観察
悪性腫瘍除外に
生検
喫煙に関連
非喫煙者では腫瘍を
Squmous cell carcinoma
扁平上皮癌
白色, 赤色の厚いプラーク
結節や潰瘍も形成。
通常舌側面
切除,
Radiation
喫煙, 飲酒,
加齢に伴う
Papilloma
乳頭腫
単一の有茎性の病変
切除
HPV-6, 11に関連
Burning tongue
舌灼熱感
舌所見は正常だが,
常に疼痛を伴う
クロナゼパム, Alpha-lipoic acid
栄養障害, 内分泌疾患
唾液減少, 感染
アレルギーなど除外
Tongue-tie(ankyloglossia)
舌小体萎縮
舌小体の萎縮で舌の運動が障害される. 授乳が難しい
外科的切除
授乳不足に関連
Macroglossia
巨舌
舌の側面が波打ち,
舌全体が巨大化
基礎疾患の治療
いろいろ

Median rhomboid glossitis; 

 男性は女性よりも3倍多い. 症状は無症候性が殆ど.
 カンジダ症に関連することが多く, 抗真菌薬が治療となる.
 粘膜は保持されるが, HIV患者では粘膜炎も認められるため, 粘膜炎合併例は要注意.

Atrophic glossitis; 
 乳頭の萎縮を伴う舌炎. 平滑に見える.
 下に挙げる様な原疾患が考えられる.

Fissured tongue; 
 
通常の舌溝が深くなる.
 食物残渣が溜まり, 炎症を来す.
 清潔を保持することが大事.

Geographic tongue; 一般人口の1-14%で認められる
地図状舌; 別名 “Benign migratory glossitis” “Erythema migraines” “Annulus migrans” “Wandering rash of the tongue”と呼ばれる.
 舌上に多発性, 円状, 不定形の紅斑を認め, 周辺を白色角化層が覆う
 中心部の紅斑部は乳頭の萎縮が認められ, ケラチンと好中球を認める.
 寛解と再燃を繰り返し, 舌病変が移動するように見える.
 通常無症候であることが多いが, 舌のヒリヒリした感覚, 辛いものに対する味覚過敏を認めることもある.
 あらゆる年齢で発症し, 特に治療無しで改善する.
 はっきりとした原因は分かっていない.
 アトピー疾患, Psoriasisとの関連が示唆されるStudyもちらほら. (J Contemp Dent Pract 2005;1:123-35)
地図状舌188例の解析(J Contemp Dent Pract 2005;1:123-35)
タイにおける, 地図状舌188名とControl 188名の比較
 男女比は1:1.5と女性に多い.
 年齢は9-79yrまであらゆる年齢で生じるが, 20-29yrが15-20%を占め最多.
 基礎疾患の比較ではどれも有意差認めず.
 舌病変の部位; 多発性が62.8%を占める. 側面, 前方が多い.
側面
68.6%
前方
58.5%
背面
42%
前面
10.6%
舌の焼ける様な感覚は24.5%で認める. 特にSpicy, sour foodで認めることが多い.
Hairy tongue; (Fig 4)
 
乳頭上に多量のケラチンが溜まると毛状に見えることからこう呼ぶ.
 口腔内不衛生, 喫煙に関連する所見

Oral hairy leukoplakia; (Fig 5)
 舌の側面に生じる点で上記とは異なる. 片側, 両側どちらもアリ.
 EBV感染症と免疫不全に関連する.
 免疫不全の既往が無い場合はHIVチェック必要.
Lichen planus; 
 
皮膚と粘膜に病変を生じる.
 網様, 白色のレース状のプラーク, 浅い潰瘍病変を生じる.
 カンジダとの併存もある.
他の所見: Fibroma, 扁平上皮癌. これらは生検が必要.


Macroglossia; 巨舌
ダウン症,  甲状腺機能低下症, 結核, サルコイドーシス, アミロイドーシス, 多発性骨髄腫, Neurofibromatosis,  梅毒感染症,  血管浮腫, アレルギーで認められる.

2014年6月28日土曜日

スタチンによる筋症状

Statin intolerance: 筋症状, CPK上昇, 肝障害によりスタチンを継続できないこと. (Am J Cardiol 2014;113:1765-1771)
スタチン使用患者の5-10%がStatin intoleranceとなる.

Statin intoleranceの明確な基準, 検査, 判断基準は無し.
一部では中止, Rechallengeで判断する専門医もいるが, 一般的ではない.

スタチンによる肝障害 Circulation 2002;106:1024-8
 Statinによる肝酵素上昇は0.5-2.0%であり, Dose-dependent
 用量を減少させれば改善を認め,肝不全まで至る例はほとんどなし
 再使用, 他のStatin使用による再発は通常認めない
 HCV, HBV, 脂肪肝患者に対するStatin使用で, 肝障害が増悪するEvidenceは無く, むしろ脂肪肝を改善させ得る
 肝障害はスタチン開始後3-4ヶ月以内で最も多く,
  Atorvastatinでは胆汁うっ滞型障害,
  Simvastatinでは肝細胞障害型の障害パターン
を来す.
 説明不可能な肝酵素上昇(≥3ULN)はスタチンの投与禁忌となる.

スタチンによる筋障害 Neurology 2011;76:S14-9
スタチンによる筋障害には大きく2つに分類される.
 Non-autoimmune statin-related myopathy
 Statin-induced autoimmune myopathy(myositis)

Non-autoimmune statin-related myopathy
 通常のスタチン使用に伴う筋症のこと.
 筋肉痛, 把握痛, 無症候性のCPK上昇, 筋炎, 横紋筋融解など
 CPKは10ULNを超える上昇を示すことは少ない
 Statin + 抗生剤など, 多剤との併用例に多い.
 何らかの筋症状は10%, 筋肉痛は7%で認められ, 重度の筋障害は0.08-0.09%
 Fibrateとの併用例では1%の頻度でCPK > 3ULNとなる.
 他の報告では筋痛は2%, 筋炎は0.05%, 横紋筋融解は0.002%との報告もあり
(Am J Cardiol 2014;113:1765-1771)
スタチンの種類でもリスクは異なり,
 特にSimvastatin 40-80mg/dで最もリスクが高い(18.2% vs 10.5%)

スタチンによる筋症, 筋痛, 筋炎, 横紋筋融解症の定義
Clinical Interventions in Aging 2013:8 47–59
スタチンのStudyより筋症状の頻度(自覚症状) JAMA. 2003;289:1681-1690
筋力低下は筋炎や横紋筋融解症で伴う症状であるが, CPK正常群でも生じ得る.
筋力低下を評価したStudyはほぼ無いがスタチン使用中の患者4例で股関節外転, 屈曲MMTを評価すると, 10-40%の低下が認められた.

スタチンによる横紋筋融解症
 1997-2000年にFDAに報告された症例は601例.
 Simvastatin 36%, Cerivastatin 32%, Atorvastatin 12%, Pravastatin 12%, Lovastatin 7%, Fluvastatin 2%であった.
 1990-2002年に報告された3339例のスタチンによる横紋筋融解症:

致死的な横紋筋融解症は0.15/100万と非常に稀.
薬剤別にみると(/10万),
 Lovastatin 0.19, Pravastatin 0.04, Simvastatin 0.12, Fluvastatin 0,
 Atorvastatin 0.04, Cerivastatin 3.16.
Cerivastatinは他の薬剤と比較して16-80倍のリスクとなるが, 他の薬剤間の比較では有意差無し.
Cerivastatinはこれが理由で発売中止となった. Fluvastatinでは報告例が少ない.
また, 横紋筋融解症は高齢者程報告例が多い.

Statinによる筋症の特徴 (Am J Cardiol 2014;113:1765-1771)
 筋痛は両側対称性に生じ, 下肢近位筋で特に多い.
 スタチン開始後6ヶ月以内で生じる例が多いが, どのタイミングでも生じてよい. 中央値は1ヶ月であるが, 範囲は1wk〜4年までと幅広い. (Curr Opin Rheumatol 2013, 25:747–752)
 薬剤中止後は改善してゆくが, 完全に症状が消失するまでは3ヶ月間かかることもある.
 薬剤中止後もCPK上昇や筋症状が残存することがあるが, その場合は皮膚筋炎, 多発筋炎, PMR, 代謝内分泌障害をチェック.
筋生検を考慮するくらい重度な筋症例では. その10%に遺伝子異常を認める;
 Heterozygous myophosphorylase deficiency,
 Homozygous myophosphorylase deficiency(McArdle disease),
 Heterozygous carnitine palmitoyltransferase II(CPT2) deficiency,
 Pompe disease
 Malignant hyperthermia due to ryanodine receptor(RYR1) mutations

筋障害はスタチンの種類, 量に依存.
 Cerivastatinが最も多く, 販売中止.
 他, Atorvastatin(リピトール), Simvastatin(リポバス)でHigh Risk
Statinと相互作用を示す薬剤一覧 (Circulation 2004;110:886-92)
 CYP3A4, CYP2C9が代謝に関与する.
Fibrates
Cyclosporine
Venlafaxine
Niacin
Tacrolimus
Fluoxetine
Warfarin
Fluconazole, Itraconazole
Sertraline
Digoxin
Erythromycin, Azithromycin
Antihistamines
Verapamil
HIV protease inhibitors
Grapefruit juice
Amiodarone
Nefazodone

他に筋障害のRiskとなる要素 (Neurology 2011;76:S14-9)
内因性
高齢者>80yr
肝障害
高血圧
甲状腺機能低下
糖尿病
CYP450 polymorphisms
小型の体格
筋症の既往, 家族歴
腎障害

外因性
高度な運動
外傷
Major surgery
薬剤(上記)
(Am J Cardiol 2014;113:1765-1771)
補足: 各スタチンの代謝経路, 吸収率 (Endocrinol Metab Clin N Am 38 (2009) 121–136)

CPK上昇が無くても筋症はある
83名の外側広筋を生検(CMAJ 2009;181:E11-8)
健康男性
10
Age-matched control
10
臨床的Statin-associated myopathy(+), Statin>3wk前に中止
15
臨床的Statin-associated myopathyの既往(+), Statin内服中
29
4-20年間, Statin内服中の患者
19
Current Statin Userの9.5%, Past Statin Userの9.0%で筋組織の障害を認めた.
筋組織の障害はCPK低値, 正常でも認めており, CPK値は筋組織障害を反映しない可能性を示唆.

Statin Intoleranceへの対応 (Am J Cardiol 2014;113:1765−1771)
CPK上昇例への対応
 CPK >10ULNでは筋炎, 横紋筋融解リスクあり, スタチン投与は避けるべきであり, 他のLDL-C低下作用のある薬剤を選択すべき. (Niacin, Bile acid sequestrant cholestyramine等)
 CPK<10ULNではあまり決まっていない.
 筋症のリスク因子がある場合はそれを取り除き, CPKをモニタリングしつつ慎重に再開してもよい.
CPK正常例への対応(筋肉痛)
 CPK正常で筋痛のみの場合, スタチン使用のBenefitを再度検討する.
 心血管イベントリスクを評価し, 使用を考慮する.

スタチンを中止しても40-90%で再開は可能.
 投与量を調節したり, 他のスタチンへ変更することで使用可能となる.
 決まった方法はなく, Trial and errorを繰り返す.
 Fluvastatin XL 80mg/dは97%の患者で投与可能であった報告もあり, Fluvastatin(ローコール®)へ変更するのも1つの手.
 Rosuvastatin(クレストール®) 5-10mg/dも98%で投与可能であった.
Endocrinol Metab Clin N Am 38 (2009) 121–136

69例のMild statin myopathyで原因薬剤を中止しフォロー. ( J Clin Neuromusc Dis 2013;14:103–109)
 平均年齢 62.1±11.7歳, 男性71%
 スタチン使用期間は29.6±33.1ヶ月.
 フォローアップ期間は18.2±19.1ヶ月.
 症状は筋痛 91.3%, 倦怠感 68.1%, 筋力低下 68.1%.
 所見で筋力低下が認められたのは26.1%
 CPK 789.9±988.0, CPK正常は24.6%, CPK上昇は75.4%. CPK>1000は23.2%
中止後の症状, 所見の改善
アウトカム
%
症状不変
14.5%
症状軽快
13.0%
症状消失
72.5%
1M以内
24.0%
3M以内
62.0%
6M以内
90.0%
1y以内
96.0%
3y以内
98.0%
5y以内
100%
改善例と不変例の比較では, CPKの値, 脱力の有無で有意差無し

Statin-induced autoimmune myopathy(myositis)
スタチンによる筋障害で稀だが自己免疫性壊死性筋症を来す.
 近位筋の脱力を来す. 疼痛を伴わない場合もあり.
 スタチン中止しても改善しない筋症.
 組織は炎症細胞を伴わない or 乏しい, 筋線維の壊死が特徴的.
 Mφは少数認められるが, リンパ球はほぼ皆無.
 抗200/100抗体が認められるとの報告がある
  この抗体はHMGCRに対する直接的な抗体と判明 >> 抗HMGCR抗体.
 治療は免疫抑制剤, ステロイドであり, 知っておくことが重要.
Neurology 2011;76:S14-9 Curr Opin Rheumatol 2013, 25:747–752

臨床所見, 経過
 発症は急性〜慢性まで様々であり, 非特異的な筋症状を呈する.
 筋組織が壊死することで筋力低下や脱力を認める.
 急性の筋壊死で著明にCPKが上昇する病態から, 特発性炎症性筋炎のような慢性経過を呈する例まで様々.
 筋障害は特発性筋炎と同様, 近位筋に多く, 左右対称性. (Inclusion body myositisやALS, Charcot-Marie-Toothの様な神経変性では遠位筋も障害されることが多い)
 Fasciculationや早期の筋萎縮がある場合は他の疾患を考慮すべき.
 他の自己免疫性筋炎のように, 皮膚や肺等の筋外症状を来すことは無い.
スタチン使用量, 期間で症状の重症度が変化するかどうかは不明
 大半が長期間投与し, 専門へ紹介し診断される例が多く, データ不足
Autoimmunity Reviews 12 (2013) 1177–1181 

通常のスタチンによる筋症(Non-autoimmune)と比較すると,
筋力低下が多く, 薬剤中止後も持続するのが特徴.
HLA-DRB1*11:01の関連があり, 治療は免疫抑制剤となる. (PSL + IVIG or MTX)

Curr Opin Rheumatol 2013, 25:747–752

自己抗体: 抗HMGCR抗体.
 壊死性筋症の16/25で200/100kDa protein complexに対する抗体が発見され,その抗体はスタチン暴露と密接な関連性があることが示された.
 スタチン曝露後の筋炎では63%が陽性, 一方で皮膚筋炎では15.2%, 多発筋炎では18.4%, IBMでは35.5%
 Johns Hopkins Myositis Centreで750例の患者で抗体を評価され, 45例で抗体陽性.
 そのうち50歳以上の患者群では92.3%でスタチン暴露が認められた.

この抗体の100kDa componentはHMGCRに対する抗体であることが判明し, 抗HMGCR抗体とされた

 ELISAは感度94.4% 特異度 99.3%で抗HMGCR抗体を検出可能.
Autoimmunity Reviews 12 (2013) 1177–1181 

抗HMGCR筋炎は自己免疫性筋炎の6%を占める.
 自己免疫性筋炎は22/10万の頻度.
 Statin-induced autoimmune myositisは1/10万程度.
 Necrotizing myopathyの1/3が抗HMGCR陽性筋症.
 Statin-induced autoimmune myositisは50歳台以降に多く発症する.
 スタチンへの暴露がなくても抗HMGCR抗体を認めることはあり, スタチンへの暴露歴, 抗体陽性, 筋症状が揃ってStatin-induced autoimmune myositisと診断すべきである

抗HMGCR抗体陽性筋炎の組織所見
 筋線維の壊死が目立つ.
 壊死所見の割にはリンパ球, 炎症細胞浸潤は乏しい.
 相対的にMφの浸潤が目立つ.
 CD8+ T cellの浸潤は認めない事が多いが, かといって認めた場合に除外できるほどの所見ではない.

 筋内膜, 筋周膜の炎症細胞浸潤は30%で認められるが, 軽度のみの事が多く, Denervation, amyloid沈着, 異常なGlycogen accumulationは認めない (これら所見はIBM, 糖原病で認められる所見)

Statin-induced autoimmune myositisの治療
 スタチンの中止で一部所見は改善し得るが, 中止後も増悪する例もある.
 その場合は免疫抑制剤を考慮する.
 PSL ± MTX, Azathioprine, mycophenolateがよく使用される.
 リツキシマブを使用した症例報告もあり.
 免疫抑制剤は徐々に減量するが, 減量に伴い再燃する例もある. (スタチン再使用に関わらず)
 他にCoenzyme Q, Vit DはNon-autoimmune statin-related myalgiaで使用されるが, 効果のほどは不明.