Statin intolerance: 筋症状, CPK上昇, 肝障害によりスタチンを継続できないこと. (Am J Cardiol 2014;113:1765-1771)
スタチン使用患者の5-10%がStatin intoleranceとなる.
Statin intoleranceの明確な基準, 検査, 判断基準は無し.
一部では中止, Rechallengeで判断する専門医もいるが, 一般的ではない.
スタチンによる肝障害 Circulation 2002;106:1024-8
Statinによる肝酵素上昇は0.5-2.0%であり, Dose-dependent
用量を減少させれば改善を認め,肝不全まで至る例はほとんどなし
再使用, 他のStatin使用による再発は通常認めない
HCV, HBV, 脂肪肝患者に対するStatin使用で, 肝障害が増悪するEvidenceは無く, むしろ脂肪肝を改善させ得る
肝障害はスタチン開始後3-4ヶ月以内で最も多く,
Atorvastatinでは胆汁うっ滞型障害,
Simvastatinでは肝細胞障害型の障害パターンを来す.
説明不可能な肝酵素上昇(≥3ULN)はスタチンの投与禁忌となる.
スタチンによる筋障害 Neurology 2011;76:S14-9
スタチンによる筋障害には大きく2つに分類される.
Non-autoimmune statin-related myopathy
Statin-induced autoimmune myopathy(myositis)
Non-autoimmune statin-related myopathy
通常のスタチン使用に伴う筋症のこと.
筋肉痛, 把握痛, 無症候性のCPK上昇, 筋炎, 横紋筋融解など
CPKは10ULNを超える上昇を示すことは少ない
Statin + 抗生剤など, 多剤との併用例に多い.
何らかの筋症状は10%, 筋肉痛は7%で認められ, 重度の筋障害は0.08-0.09%
Fibrateとの併用例では1%の頻度でCPK > 3ULNとなる.
他の報告では筋痛は2%, 筋炎は0.05%, 横紋筋融解は0.002%との報告もあり
(Am J Cardiol 2014;113:1765-1771)
スタチンの種類でもリスクは異なり,
特にSimvastatin 40-80mg/dで最もリスクが高い(18.2% vs 10.5%)
スタチンによる筋症, 筋痛, 筋炎, 横紋筋融解症の定義
Clinical Interventions in Aging 2013:8 47–59
スタチンのStudyより筋症状の頻度(自覚症状) JAMA. 2003;289:1681-1690
筋力低下は筋炎や横紋筋融解症で伴う症状であるが, CPK正常群でも生じ得る.
筋力低下を評価したStudyはほぼ無いがスタチン使用中の患者4例で股関節外転, 屈曲MMTを評価すると, 10-40%の低下が認められた.
スタチンによる横紋筋融解症
1997-2000年にFDAに報告された症例は601例.
Simvastatin 36%, Cerivastatin 32%, Atorvastatin 12%, Pravastatin 12%, Lovastatin 7%, Fluvastatin 2%であった.
1990-2002年に報告された3339例のスタチンによる横紋筋融解症:
致死的な横紋筋融解症は0.15/100万と非常に稀.
薬剤別にみると(/10万),
Lovastatin 0.19, Pravastatin 0.04, Simvastatin 0.12, Fluvastatin 0,
Atorvastatin 0.04, Cerivastatin 3.16.
Cerivastatinは他の薬剤と比較して16-80倍のリスクとなるが, 他の薬剤間の比較では有意差無し.
Cerivastatinはこれが理由で発売中止となった. Fluvastatinでは報告例が少ない.
また, 横紋筋融解症は高齢者程報告例が多い.
Statinによる筋症の特徴 (Am J Cardiol 2014;113:1765-1771)
筋痛は両側対称性に生じ, 下肢近位筋で特に多い.
スタチン開始後6ヶ月以内で生じる例が多いが, どのタイミングでも生じてよい. 中央値は1ヶ月であるが, 範囲は1wk〜4年までと幅広い. (Curr Opin Rheumatol 2013, 25:747–752)
薬剤中止後は改善してゆくが, 完全に症状が消失するまでは3ヶ月間かかることもある.
薬剤中止後もCPK上昇や筋症状が残存することがあるが, その場合は皮膚筋炎, 多発筋炎, PMR, 代謝内分泌障害をチェック.
筋生検を考慮するくらい重度な筋症例では. その10%に遺伝子異常を認める;
Heterozygous myophosphorylase deficiency,
Homozygous myophosphorylase deficiency(McArdle disease),
Heterozygous carnitine palmitoyltransferase II(CPT2) deficiency,
Pompe disease
Malignant hyperthermia due to ryanodine receptor(RYR1) mutations
筋障害はスタチンの種類, 量に依存.
Cerivastatinが最も多く, 販売中止.
他, Atorvastatin(リピトール), Simvastatin(リポバス)でHigh Risk
Statinと相互作用を示す薬剤一覧 (Circulation 2004;110:886-92)
CYP3A4, CYP2C9が代謝に関与する.
Fibrates
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Cyclosporine
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Venlafaxine
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Niacin
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Tacrolimus
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Fluoxetine
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Warfarin
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Fluconazole, Itraconazole
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Sertraline
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Digoxin
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Erythromycin, Azithromycin
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Antihistamines
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Verapamil
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HIV protease inhibitors
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Grapefruit juice
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Amiodarone
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Nefazodone
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他に筋障害のRiskとなる要素 (Neurology 2011;76:S14-9)
内因性
高齢者>80yr
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肝障害
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高血圧
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甲状腺機能低下
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糖尿病
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CYP450 polymorphisms
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小型の体格
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筋症の既往, 家族歴
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腎障害
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外因性
高度な運動
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外傷
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Major surgery
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薬剤(上記)
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(Am J Cardiol 2014;113:1765-1771)
補足: 各スタチンの代謝経路, 吸収率 (Endocrinol Metab Clin N Am 38 (2009) 121–136)
CPK上昇が無くても筋症はある
83名の外側広筋を生検(CMAJ 2009;181:E11-8)
健康男性
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10名
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Age-matched control
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10名
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臨床的Statin-associated myopathy(+), Statinは>3wk前に中止
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15名
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臨床的Statin-associated myopathyの既往(+), Statin内服中
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29名
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4-20年間, Statin内服中の患者
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19名
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Current Statin Userの9.5%, Past Statin Userの9.0%で筋組織の障害を認めた.
筋組織の障害はCPK低値, 正常でも認めており, CPK値は筋組織障害を反映しない可能性を示唆.
Statin Intoleranceへの対応 (Am J Cardiol 2014;113:1765−1771)
CPK上昇例への対応
CPK >10ULNでは筋炎, 横紋筋融解リスクあり, スタチン投与は避けるべきであり, 他のLDL-C低下作用のある薬剤を選択すべき. (Niacin, Bile acid sequestrant cholestyramine等)
CPK<10ULNではあまり決まっていない.
筋症のリスク因子がある場合はそれを取り除き, CPKをモニタリングしつつ慎重に再開してもよい.
CPK正常例への対応(筋肉痛)
CPK正常で筋痛のみの場合, スタチン使用のBenefitを再度検討する.
心血管イベントリスクを評価し, 使用を考慮する.
スタチンを中止しても40-90%で再開は可能.
投与量を調節したり, 他のスタチンへ変更することで使用可能となる.
決まった方法はなく, Trial and errorを繰り返す.
Fluvastatin XL 80mg/dは97%の患者で投与可能であった報告もあり, Fluvastatin(ローコール®)へ変更するのも1つの手.
Rosuvastatin(クレストール®) 5-10mg/dも98%で投与可能であった.
Endocrinol Metab Clin N Am 38 (2009) 121–136
69例のMild statin myopathyで原因薬剤を中止しフォロー. ( J Clin Neuromusc Dis 2013;14:103–109)
平均年齢 62.1±11.7歳, 男性71%
スタチン使用期間は29.6±33.1ヶ月.
フォローアップ期間は18.2±19.1ヶ月.
症状は筋痛 91.3%, 倦怠感 68.1%, 筋力低下 68.1%.
所見で筋力低下が認められたのは26.1%
CPK 789.9±988.0, CPK正常は24.6%, CPK上昇は75.4%. CPK>1000は23.2%
中止後の症状, 所見の改善
アウトカム
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%
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症状不変
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14.5%
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症状軽快
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13.0%
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症状消失
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72.5%
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1M以内
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24.0%
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3M以内
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62.0%
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6M以内
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90.0%
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1y以内
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96.0%
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3y以内
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98.0%
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5y以内
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100%
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改善例と不変例の比較では, CPKの値, 脱力の有無で有意差無し
Statin-induced autoimmune myopathy(myositis)
スタチンによる筋障害で稀だが自己免疫性壊死性筋症を来す.
近位筋の脱力を来す. 疼痛を伴わない場合もあり.
スタチン中止しても改善しない筋症.
組織は炎症細胞を伴わない or 乏しい, 筋線維の壊死が特徴的.
Mφは少数認められるが, リンパ球はほぼ皆無.
抗200/100抗体が認められるとの報告がある
この抗体はHMGCRに対する直接的な抗体と判明 >> 抗HMGCR抗体.
治療は免疫抑制剤, ステロイドであり, 知っておくことが重要.
Neurology 2011;76:S14-9 Curr Opin Rheumatol 2013, 25:747–752
臨床所見, 経過
発症は急性〜慢性まで様々であり, 非特異的な筋症状を呈する.
筋組織が壊死することで筋力低下や脱力を認める.
急性の筋壊死で著明にCPKが上昇する病態から, 特発性炎症性筋炎のような慢性経過を呈する例まで様々.
筋障害は特発性筋炎と同様, 近位筋に多く, 左右対称性. (Inclusion body myositisやALS, Charcot-Marie-Toothの様な神経変性では遠位筋も障害されることが多い)
Fasciculationや早期の筋萎縮がある場合は他の疾患を考慮すべき.
他の自己免疫性筋炎のように, 皮膚や肺等の筋外症状を来すことは無い.
スタチン使用量, 期間で症状の重症度が変化するかどうかは不明
大半が長期間投与し, 専門へ紹介し診断される例が多く, データ不足
Autoimmunity Reviews 12 (2013) 1177–1181
通常のスタチンによる筋症(Non-autoimmune)と比較すると,
筋力低下が多く, 薬剤中止後も持続するのが特徴.
HLA-DRB1*11:01の関連があり, 治療は免疫抑制剤となる. (PSL + IVIG or MTX)
Curr Opin Rheumatol 2013, 25:747–752
自己抗体: 抗HMGCR抗体.
壊死性筋症の16/25で200/100kDa protein complexに対する抗体が発見され,その抗体はスタチン暴露と密接な関連性があることが示された.
スタチン曝露後の筋炎では63%が陽性, 一方で皮膚筋炎では15.2%, 多発筋炎では18.4%, IBMでは35.5%
Johns Hopkins Myositis Centreで750例の患者で抗体を評価され, 45例で抗体陽性.
そのうち50歳以上の患者群では92.3%でスタチン暴露が認められた.
この抗体の100kDa componentはHMGCRに対する抗体であることが判明し, 抗HMGCR抗体とされた
ELISAは感度94.4% 特異度 99.3%で抗HMGCR抗体を検出可能.
Autoimmunity Reviews 12 (2013) 1177–1181
抗HMGCR筋炎は自己免疫性筋炎の6%を占める.
自己免疫性筋炎は22/10万の頻度.
Statin-induced autoimmune myositisは1/10万程度.
Necrotizing myopathyの1/3が抗HMGCR陽性筋症.
Statin-induced autoimmune myositisは50歳台以降に多く発症する.
スタチンへの暴露がなくても抗HMGCR抗体を認めることはあり, スタチンへの暴露歴, 抗体陽性, 筋症状が揃ってStatin-induced autoimmune myositisと診断すべきである
抗HMGCR抗体陽性筋炎の組織所見
筋線維の壊死が目立つ.
壊死所見の割にはリンパ球, 炎症細胞浸潤は乏しい.
相対的にMφの浸潤が目立つ.
CD8+ T cellの浸潤は認めない事が多いが, かといって認めた場合に除外できるほどの所見ではない.
筋内膜, 筋周膜の炎症細胞浸潤は30%で認められるが, 軽度のみの事が多く, Denervation, amyloid沈着, 異常なGlycogen accumulationは認めない (これら所見はIBM, 糖原病で認められる所見)
Statin-induced autoimmune myositisの治療
スタチンの中止で一部所見は改善し得るが, 中止後も増悪する例もある.
その場合は免疫抑制剤を考慮する.
PSL ± MTX, Azathioprine, mycophenolateがよく使用される.
リツキシマブを使用した症例報告もあり.
免疫抑制剤は徐々に減量するが, 減量に伴い再燃する例もある. (スタチン再使用に関わらず)
他にCoenzyme Q, Vit DはNon-autoimmune statin-related myalgiaで使用されるが, 効果のほどは不明.