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2013年9月28日土曜日

蜂に大量に刺されたらどうなる?

タグ; 蜂刺傷
蜂刺傷は通常局所の疼痛, 発赤, アレルギーによるアナフィラキシーショックが有名.
 複数刺され, 体内の蜂毒素が高くなると血管内溶血, DIC, 横紋筋融解症, AKI, 急性肝炎等 多臓器不全を呈し致死的となる症例報告がある.


(Saudi J Kidney Dis Transplant 2008;19(6):969-972)

● 22歳男性, 50-100箇所の蜂刺傷を受けた.
 アナフィラキシーは無く, Vitalも正常.
 市中病院でステロイド, H1阻害薬のDIVを受けたが, 次に示す様な経過をたどったため, 大規模病院へ転院となった(インド)



入院時は急性腎不全, AST 7000台, CPK上昇,
AST>LDHであり, 横紋筋融解と急性肝障害の合併疑い.
PLT低下, 貧血進行もあり, DICと血管内溶血が示唆.
腎生検では微小血管閉塞の所見

蜂刺傷による微小血管内溶血を疑われたが, 破砕赤血球は無く, 血漿交換のEvidenceも乏しい為, 行われなかった.
 この症例はDay 9に死亡.

多臓器不全が軽度で済む症例でも, AKIによる乏尿, 無尿が継続し, 透析で繋ぐ必要があることもある. 
 3例の症例報告では1例死亡, 2例は完全に改善した経過であった.
 腎機能は透析離脱までは16日~20日, 完全に改善するまでは42日~56日間かかっている
(NEPHROLOGY 2005; 10, 548–552)

29歳女性の蜂刺傷例の経過
 貧血の進行とBilの上昇あり, 溶血を示唆.また腎不全も認めたが, 透析にはいたらず.
 腎機能は14日をピークに改善を認めた. 肝障害も認めたが, 問題なく改善.
(Nephrol Dial Transplant (1999) 14: 214–217)

文献より24例のReview

様々な蜂で生じる(スズメバチだけではない)
病態は血管内溶血, 横紋筋融解, 肝炎(肝細胞壊死), 急性腎不全(ATN)の組み合わせである事が多い.
死亡は6/24と25%に及び、予後は悪い病態と言える.
(Nephrol Dial Transplant (1999) 14: 214–217)

30歳男性, 登山中にAfricanized beeに複数回刺された. 数えると2000箇所も刺されており, 耳の中からも蜂がでてきた.

 来院時Shock vitalであり, ステロイド, H1,H2阻害薬, 補液, 電解質補正等施行.
 第3病日に無尿となり, 腹膜透析を行い, 同時に毒素除去目的に血漿交換を開始. 血漿交換は計3回施行した.
 最終的には21日目に後遺症無く退院
(Arch Intern Med. 1998;158:925-927)

まとめると,
 蜂の種類によらず, 大量に刺される事で体内では血管内溶血と横紋筋融解を生じ, その結果AKI, 肝細胞壊死を生じることが分かった.
 AKIは重度で透析となる例が多いが, 増悪するのは大体2-3週間がピークでその後1-2ヶ月で改善してくる可能性も高い.
 治療は対症療法が一般的ではあるが, 一部では血漿交換が行われている. ただし, 有用性は未だ不明.

ハチ毒; bee venom, Apitoxinの成分は
 酵素; ホスホリパーゼ, ヒアルロニダーゼ, プロテアーゼ
 ペプチド; Melittin, キニン, ヒスタミン, ドーパミン. 

ハチ毒は1-5µg/mLの濃度で24h細胞死を引き起こし, 10µg/mLの濃度では72時間持続する.
 半減期によりことなると考えられている

従って, 血中濃度が高い事が予測される場合は, 早期の血漿交換による除去は理にかなっているかもしれないが, 臨床的に評価, 比較したStudyは皆無.

2013年9月27日金曜日

クラミジア感染症: Chlamydophila psittaci

C. psittaci感染症; Psittacosis

Infect Dis Clin N Am 24 (2010) 7–25
C. psittaciは主に鳥類, 動物に常在する細菌であり, ペットオーナーや, ペットショップ店員, 農業従事者, 食肉処理場, 食物加工場, 獣医の感染が多い.
 米国の1999-2006年でのPsittacosisの頻度は0.01/100000.
 無症候性や軽症例を含めるともっと多い可能性が高い.
 好発年齢は35-55yだが, 全年齢で発症し得る.
 鳥類での調査では5-8%でキャリアという報告がある. また, 鳥の糞便の90%でCp PCR陽性との報告もあり, 鳥類には高頻度で常在していると考えられる.
 接触歴の無い孤発性での発症もあり得る.
 ヒト-ヒト感染, 院内感染は稀であり, 隔離や予防的抗生剤投与は必要無し.

潜伏期間は5-21日間.
症状も無症候〜非特異的症状まで様々.
 他の細胞内寄生菌(Coxiella burnetii, brucella)と同様, 様々な臓器に感染し, 症状を来す.
 肺炎は軽度であることが多く, 早期には認めない
● 伝染性単核症様症状; 発熱, 咽頭痛, 肝脾腫, リンパ節腫大.
● Typhoidal form; 発熱, 悪寒, 徐脈, 脾腫.
● 非定型肺炎 といった症候を呈し, 様々な疾患との鑑別が必要

最も多い症状は発熱で50-100%.
 咳嗽は50-100%で認められるが, 通常晩期に多く, 初期には無い. 頭痛, 悪寒, 筋肉痛は30-70%. <50%の症状としては 発汗, 羞明, 耳鳴, 失調, 難聴, 食欲低下, 悪心, 嘔吐, 下痢, 便秘, 腹痛, 咽頭痛, 呼吸苦, 血痰等.
胸部XPでは80%で異常を認める. 片側性の浸潤影が大半.

症状, 所見頻度:

参考: C psittaci, C pneumoniae, M pneumoniae, L pneumophiliaでの症状の違い

Psittacosisの他の症状, 所見
Psittacosisによる心内膜炎
 C psittaciでは心内膜炎, 心筋炎, 心外膜炎なども来し得る. IEは稀だが, 培養陰性IEを生じる. 報告例は数例〜数十例程度.
Gestational psittacosis 
 胎盤炎や胎児への障害を来し, 凝固障害, 肺, 肝不全など多臓器不全を呈する.
Chronic follicular conjunctivitis 
 片側性のChronic follicular conjunctivitisを来す. 耳介前部のリンパ節腫脹, 点状表層角膜炎を認め, 他にCpの症状がなく, 結膜炎のみのこともある.
 10wk以上のDoxycycline投与で反応する.

Lymphomaとの関連性
 Ocular AMZ lymphomaとCp感染症の関連が示唆されている.(adnexal marginal zone) 
 イタリアと韓国では, 上記の組織のうち80%がPCRにてCp DNA陽性であった.
 Doxycycline投与によりリンパ腫が寛解するため, この評価は重要.

新規にOAMZLを診断された44名の検体でCp DNAをチェック.
J Clin Oncol 30:2988-2994
 陽性例が89%で, その全てがC. psittaci.
 陽性例39例中, 38例で結膜のスワブで陽性(97%)
 末梢血単核球では69%が陽性.
上記Part AのOAMZL全例でDoxycyclineによる除菌療法を施行.
 PCR陽性の29例中, 3ヶ月の投与で14例(48%)で除菌成功. 12ヶ月で11例で除菌成功. 3例の陽性例はさらに3ヶ月投与.
リンパ腫はCR 6例, PR 16例 (ORR 65%[49-81] ), Stableが11例, Progressiveが1例.
 Cp(+)で, 除菌成功した14例では, CR 2, PR 10, SD 2
 除菌失敗した15例では, CR 3, PR 4, SD 7, PD 1
 Cp(-)の2例では, PR 1,SD 1
 Cp除菌成功はResponse rate 86% vs 47%(p=0.02), 5年PFS 68% vs 47%(0.11)と予後改善効果が期待できる

C. psittaci感染症の診断
CDCのPsittacosisの診断定義は以下の通り
 呼吸器検体よりC psittaciが検出される.
 2wk空けたペア血清にて血清抗体価が4倍以上上昇し, 1:32以上まで上昇する (CF, microimmunofluorescence)
 単一のIgM titer 1:16以上となる(microimmunofluorescence)

培養検査; 
 C psittaciの培養はLevel 3のLaboratory isolationが必要であり, 培養検査が行われることは少ない

血清検査; CF, MIF, EIAが最も行われる検査.
 CFは最も古く, 20年以上前より行われている検査.(C. pneumoniaeが判明する前から)
 検出する抗体はLipopolysaccharideであり,  全てのChlamydiaに存在するため, 特異性は無い.
 MIF(FA)はCFよりも感度, 特異度に優れ, Gold standardとなっている. IgG, IgM, IgAを検出し, 特にIgMが強陽性となれば特異性を持ってC psittaci陽性と判断可能. ただし, 感度は19%のみ.
 EIA(ELISA)もCFと同じくLipopolysaccharideを検出するため,MIFと比べて特性は落ちる. 診断よりはスクリーニングに用いるべき検査.
日本でのクラミジア シッタシ 抗体はCF法.
 FA法(蛍光抗体法)によるIgM, IgGもあるが, 保険適応外となる. FAによるIgMは2400円程度.

PCR検査
 検査可能な場所が限られるが, 迅速で感度, 特異度とも優れる検査. 検体はBALが最も良いが, 血液や他の検体でも可能.

C. psittaci感染症の治療
抗生剤はDoxycycline. 治療反応性は良好で, 殆どの患者が48h以内に解熱
 重症例で経口投与が困難な場合は, DIVにてテトラサイクリン系を投与する.
 治療期間は14日間.
 Doxycycline以外はMinocyclineも効果が期待できるが, Tigecycline, glycylcyclineはデータ不足で不明.
 マクロライド系, FQも効果を期待できる.

心内膜炎でもDoxycyclineが1st line
 他に必要ならば手術治療となる. 治療期間はEvidence不十分で不明.

クラミジア感染症: Chlamydophilia pneumoniae

ChlamydiaはGNRの細胞内寄生菌
元々はChlamydia trachomatisとC. psittaciの2種類のみだったが, 遺伝子解析と伴にC. psittaciが細分化され, 現在は以下に分類される
C. psittaciはさらに遺伝子型で細分化される.
 其々のタイプでHostが異なっている.

Infect Dis Clin N Am 24 (2010) 7–25


C. pneumoniae感染症
市中肺炎の起因菌として多い細菌.
具体的な頻度は検査方法, 母集団により様々. (Mandel, 7th)
C. pneumoniaeによる呼吸器感染の大半は軽症〜無症候
 マイコプラズマに類似した非定型肺炎を呈する. 中には重症, 致死的な肺炎を呈することもあるが, 基礎疾患に関連していることが多い.
抗生剤選択は, Erythromycin, Clarithromycin, Azithromycin, LVFX等. 70-86%で効果あり.
C. pneumoniaeの検査
 ELISAによる抗体価測定がStandardだが, 加齢とともに偽陽性が増加
 加齢以外には, 喫煙者, リウマトイド因子陽性で偽陽性が多い
(Intern Med 2003;42:960-6)(J Clin Microbiol 1992;30:1287-90)


Sn(%)
Sp(%)
LR(+)
LR(-)
IgG >=3.00
57[51-64]
95[93-97]
12[8.3-18]
0.4[0.4-0.5]
IgA >=3.00
25[20-31]
94[92-96]
4.4[3-6.6]
0.8[0.7-0.9]
IgG >=3.00 or IgA >=3.00
65[58-71]
92[90-94]
8.5[6.3-12]
0.4[0.3-0.5]
IgG >=3.00 and IgA >=3.00
17[13-23]
99[98-100]
26[9.3-71]
0.8[0.8-0.9]
IgG >=1.10
87[82-91]
51[46-55]
1.8[1.6-1.9]
0.3[0.2-0.4]
IgA >=1.10
86[81-90]
53[49-57]
1.8[1.7-2.0]
0.3[0.2-0.4]
IgG >=1.10 or IgA >=1.10
90[85-93]
37[33-41]
1.4[1.3-1.5]
0.3[0.2-0.4]
IgG >=1.10 and IgA >=1.10
83[78-88]
67[63-70]
2.5[2.2-2.8]
0.2[0.2-0.3]

感染症誌 1999;73:457-66

CF法ではchlamydial lipopolysaccharideを検査するため菌種間での交差反応があり, 特異的ではない.
 ELISAも特異性は不明確であり, MIF(microimmunosorbent assay)も以前言われていたより特異性は下がるという報告が多い.
 2つの肺炎治療のstudyでは, 培養でC pneumonia陽性が7-13%. また, 血清抗体検査で陽性が7-18%だが, 培養と抗体双方が陽性なのは1-3%のみであった.

C. pneumoniaeによる肺炎とマイコプラズマ肺炎、肺炎球菌性肺炎との画像比較;

クラミジア肺炎 vs マイコプラズマ肺炎
40名のクラミジア肺炎, 42名のマイコプラズマ肺炎例を比較
(J Comput Assist Tomogr 2005;29:626–632)
臨床的特徴には有意差無し.
MpPではより小葉中心性陰影が多く, Chlamydiaでは粒状影, 胸水が多い.


24名のChlamydia肺炎, 41名の肺炎球菌肺炎, 30名のMycoplasma肺炎例のCT所見を比較. Radiology 2006;238:330-8
所見
CP
MP
SP
CP vs MP
CP vs SP
Consolidation
83%
77%
90%
0.546
0.413
GGO
54%
73%
36%
0.143
0.167
結節影; 気管支血管周囲
21%
33%
24%


結節影; 小葉中心性
38%
33%
32%


結節影; その他
17%
3%
0%


気管支血管束肥厚
71%
90%
41%
0.072
0.022
網状, 線状の透過性低下
62%
30%
39%
0.017
0.067
気管支拡張
38%
10%
15%
0.016
0.034
胸水
25%
20%
20%
0.661
0.603
リンパ節腫脹
33%
60%
36%
0.051
0.791
肺気腫
46%
10%
32%
0.003
0.255
両側肺に病変あり
50%
40%
51%
0.462
0.924
病変部位(上中下肺)は3群で有意差無し.
Consolidation, GGOも有意差無し.
CP vs MPの違いは, CPでより網状, 線状の透過性低下が多い点, 気管支拡張頻度が高い点, 肺気腫像が多い点が挙げられる.

2013年9月25日水曜日

くも膜下出血の予測ルール


BMJ 2010;341:c5204
1999名の頭痛患者のProspective cohort
内130名がSAHと診断.
“今までで最悪の頭痛” と訴えたのは1546名(78.5%).
SAH患者の頭痛の特徴から, 3つのPrediction ruleを作成.
1つ以上に当てはまればHigh Risk.

くも膜下出血 vs 非くも膜下出血で比較すると,
病歴より
SAH(-) 1869
SAH(+) 130
P
年齢
42.6
54.4
<0.001
女性
60.6%
56.9%
0.41
Onset-peakの時間
9.2min
3.4min
<0.002
Peak時のPain scale
8.6
9.3
<0.001
運動時の発症
10.7%
23.1%
<0.001
性交渉時の発症
6.0%
5.5%
0.79
睡眠時に頭痛で起床
19.3%
10.8%
0.016
最悪の頭痛
77.5%
93.1%
<0.001
意識障害(+)
4.5%
16.9%
<0.001
意識障害の目撃
2.5%
11.5%
<0.001
安静を必要とする頭痛
24.0%
43.9%
<0.001
頸部痛, 項部硬直
30.9%
71.1%
<0.001
嘔吐
26.3%
58.6%
<0.001
救急車使用
16.7%
56.9%
<0.001
救急に転送
7.9%
18.5%
<0.001

所見より
SAH(-) 1869
SAH(+) 130
P
項部硬直
5.2%
30.4%
<0.001
平均体温
36.4
36.3
0.39
平均HR
80.2
79.0
0.38
平均SBP
141
159
<0.001
平均DBP
81
88
<0.001



これを元に3つの予測ルールを作成;
Rule 1
Rule 2
Rule 3
年齢>40yr
救急車で来院
救急車で来院
頸部痛, 項部硬直あり
年齢>45yr
sBP>160mmHg
意識障害の目撃あり
1回以上の嘔吐
頸部痛, 項部硬直あり
運動時に発症
dBP>100mmHg
年齢 45-55yr

このルールのSAHに対する感度, 特異度は
High RiskSAH
Sn(%)
Sp(%)
Rule 1
100[97.1-100]
28.4[26.4-30.4]
Rule 2
100[97.1-100]
36.5[34.4-38.8]
Rule 3
100[97.1-100]
38.8[36.7-41.1]


 と、感度100%と除外に有効と言える.

このRuleのValidationが JAMA. 2013;310(12):1248-1255で発表.
1時間以内にピークを迎えた頭痛で, 他の神経所見(-)を満たす2131名のProspective cohort (@カナダ)
 過去6mで3回以上の同様の頭痛がある場合は除外.
 上記のうちSAHは6.2%であった.
3つのルールの感度, 特異度は以下の通り.

感度はどれも9割後半, 特異性は2-3割. 除外には有用なRuleと言える.
Thunderclap headacheと項部硬直を加えたOttawa SAHでは感度100%.

高齢者, 救急車使用者はそれだけで引っかかる.
救急車利用に関しては病院, 国より特異度は変化するだろう.
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日本国内からもPrediction ruleのstudyはあり, 日救急医会誌 . 2011; 22: 305-11
国立国際病院での研究.
 2001-2006年に頭痛を主訴に搬送された症例356例(SAH88例)でScoreを作成し, 2007-2009年に搬送された同様の患者群でValidation
 外傷, 酩酊, 昏睡, 転帰不明は除外.
 最終的に血糖, BP, K, WBCがScoreとして有用と判断.
 Score 0ならばSAHは除外可能.


あまりこのルールは使ったこと無いので何とも言えませんが...