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2013年2月27日水曜日

心不全と抗アルドステロン薬

スピロノラクトンはEFが低下した心不全の死亡率を改善させる効果が期待できる。
それについてのStudyを順繰りに追ってゆきましょう.

これが初めて発表されたのは1999年のNEJM.

RALES trial; (NEJM 1999;341:709-717)
EF<35%, ACEI, 利尿剤, Digoxin使用されている患者を
スピロノラクトン vs Placeboに割り付け, 比較したDB-RCT.
(肝, 腎障害, 弁膜症, UAP, 奇形, 高Kなどは除外されている)

開始3Yで, 死亡率・入院率・重症度に有意差出たため, Study中止
Outcome
RR
全死亡率
0.70[0.60-0.82]
 心臓が原因の死亡
0.69[0.58-0.82]
 HFの増悪による死亡
0.64[0.51-0.80]
 突然死
0.71[0.54-0.95]
入院率

 心臓が原因の入院
0.70[0.59-0.82]
 HF増悪による入院
0.65[0.54-0.77]



母集団がそのままスピロノラクトンの適応となり, EFが低下したHFにおいてACE阻害薬もしくはARBに追加して使用する薬剤として位置づけられた.

このRALES trial後より, スピロノラクトンの処方が急増
また, 心不全による入院はやや低下している. (NEJM 2004;351:543-51)
ただし, 高K血症による入院や死亡例も増加していることにも注意!
適応や高Kには十分注意せねばならない.

Eplerenone(セララ®)に関しても同等に効果が認められる.
(NEJM 2011;364:11-21)

ならばEFが保たれた心不全にたいしてはどうだろうか?
これに関して新しいRCTが発表された.
(JAMA. 2013;309(8):781-791)

Aldo-DHF trial; HFwPEF患者を対象とした, SpironolactoneのDB-RCT.
HFwPEF(EF≥50%, NYHA II-III)の422名を対象とし, Spironolactone 25mg/d vs Placeboに割り付け, 1年間継続.
エコー所見, 運動耐用量を評価.
K>5.2mEq/Lで隔日投与, >5.5mEq/Lで中断. 他副作用出現時も中断.

アウトカム;



E/e'はスピロノラクトン群で有意に改善が見込めるが, 運動耐用量は変わらない.
血液検査所見や臨床的アウトカムも有意な差は認められない.

TOPCAT trial: EF≥45%の心不全患者3445例を対象としたDBーRCT
(N Engl J Med 2014;370:1383-92.)
Spironolactone 15-45mg/d vs Placeboに割り付け, 予後を比較.

患者は≥50yでEF≥45%で心不全症状を認め, 以下を満たす.
 血圧は<140mmHg, もしくは3剤以上の降圧薬を使用して≤160mmHgを満たす.
 血清K<5.0mEq/L,
 12M以内に心不全の入院歴(+) もしくは60日以内のBNP, NT-proBNP上昇(+)を満たす.

除外項目は, 余命3年以内, GFR<30, Cre≥2.5mg/dL

アウトカム:
死亡リスクは有意差なく, HFによる入院リスクのみ低下する.
差は0.8%/yrであり, NNTは125.

副作用の比較は
 高K血症 18.7% vs 9.1%
 低K血症 16.2% vs 22.9%
 Cre値が2倍 or 正常上限以上に上昇 10.2% vs 7.0%
 透析導入やCre値>3.0mg/dLは両者有意差無し.

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EFが低下した心不全では抗アルドステロン薬は死亡リスクの軽減効果を示すが,
EFが保たれた心不全では死亡リスクには関連しない.
ただし, 心不全の増悪予防, 入院リスクを軽減する効果が期待できる.

EF値によりリスク-ベネフィットが異なるため、適応を考えて投与を考慮すべき薬剤.

2013年2月21日木曜日

入院患者のストレス潰瘍予防について

ICU患者における潰瘍予防はPPI? or H2阻害薬?

ICU患者のストレス潰瘍予防; PPI vs H2阻害薬のmeta-analysis
(Crit Care Med 2013;41:693-705)
ICU患者のStress潰瘍予防目的のPPI vs H2-blockerを比較した14 RCTsのMeta-analysis(n=1720)

アウトカムでは, PPIの方がH2阻害薬よりも潰瘍, 出血予防効果は良好となる...が,
アウトカム
RR
消化管出血
0.36[0.19-0.68]
著明なGI出血
0.35[0.21-0.59]
死亡
1.01[0.83-1.24]
院内肺炎
1.06[0.73-1.52]



Funnel plotを見てみると,
どうもPPI有利のStudyが多く発表されているようだ.

*Funnel plotとは, 縦軸にそのRCTの母集団数, 横軸に結果(RR)をプロットしてゆくもの.
母集団数が多ければ, より現実に近い結果となり, 母集団が少なければそのバラツキも大きくなるので, 通常真のRRを頂点として三角形となる.
その形がおかしい場合, 今回の場合は, PPI vs H2BのRRが>1となるStudyが明らかに欠けている印象があり, つまりPPIに不利な文献が出版, 発表されていないことが予測される.
 = 出版バイアスの可能性が高いと判断できる.

三角形の頂点はどうやらRR1付近にありそうであり, 潰瘍予防効果はPPI>H2阻害薬だ!!
とは思わない方が良いのかもしれない。

ICUでの潰瘍予防はどの患者に対して行われるべき?
基本的にICUならば全患者で行われるべきと言えますが,
以下のStudyが個人的に面白いと思っている.

(Crit Care Med 2010;38:2222-8)
H2阻害薬によるストレス潰瘍予防について調査した17 RCTsのMeta
結果は以下の通り;
Outcome
母集団全体
非経腸栄養群
経腸栄養群
消化管出血OR
0.47[0.29-0.76]
0.37[0.23-0.61]
1.26[0.43-3.70]
院内肺炎OR
1.53[0.89-2.61]
1.26[0.68-2.32]
2.81[1.20-6.56]
死亡OR
1.03[0.78-1.37]
0.87[0.36-1.19]
1.89[1.04-3.44]


H2-R blockerは, 非経腸栄養中の患者への使用では, 消化管出血リスクを軽減する効果を示すが, 経腸栄養中の患者への使用では消化管出血リスク低下効果は無し. それどころか, 院内肺炎, 死亡リスクを上昇させる.

ストレス潰瘍予防目的の制酸剤は経腸栄養開始後は速やかに中止する! 
だらだらと投与しないほうが良い.

ICU以外では潰瘍予防はどうするの?
(Arch Intern Med. 2011;171(11):991-997)
≥18yr, 3d以上入院している患者 78394名のCohort. 
元々GI出血にて入院されている患者は除外.
制酸剤使用; H2阻害薬, PPI使用と定義.
患者の平均年齢は56yr. 男性41%. 制酸剤使用したのは59%. GI出血合併率は0.29%
Propensity scoreで調節した結果では, 制酸剤使用はGI出血 OR 0.63[0.42-0.93],
臨床的に明らかなGI出血 OR 0.58[0.37-0.91]と有意差認めるが, NNTにすると770とかなり高い値.

ICU以外では重症度に応じて決めるべき.
薬剤による予防効果は認めるけど, NNTはかなり高く, 実感できる程の効果もない.
対費用効果も不明.

リスクに応じて考えるべきで,
基本的に絶食の人や抗血小板薬, 抗凝固薬使用中, 高用量ステロイド投与中ではやったら? という感じ.


2013年2月15日金曜日

糖尿病性足壊疽に対する高気圧酸素療法のMeta


Mayo Clin Proc. 2013;88(2):166-175

糖尿病性足壊疽の患者を対象とした, 高気圧酸素療法の効果を評価した13 trialsのmeta.
7つがProspective RCT. Non-RCTが4つ, Case-controlが2つ. N= 624.

長期予後; 1年以降の予後
短期予後; 6ヶ月時点での予後, と定義.

結果は,
長期予後, 短期予後ともにHBO群の方が良好.
ただし, RCTsのみで見た場合は有意差無し.

足関節より上部の切断のリスクもHBO群でより低リスクとなる.

足関節よりも末端での切断リスクは両者で有意差なく, HBOをしても切断リスクは低下しない.

糖尿病性足壊疽では, HBOは治癒率を改善させ, 足関節より上部の切断リスクも低下させ得る.
ただし, 末端は切断する必要があるかもしれない.

抗凝固療法中の患者におけるPCIでは, Clopidogrel追加のみでOK


Use of clopidogrel with or without aspirin in patients taking oral anticoagulant therapy and undergoing percutaneous coronary intervention: an open-label, randomised, controlled trial.
Lancet 2013 online first

WOEST trial; 既に抗凝固薬を使用している患者群において, PCIを施行した573名のOpen-label RCT.
Clopidogrel単独追加群 vs Clopidogrel + ASA併用群に割り付け, 1年以内の出血リスク, 冠血管イベントリスクを比較.
ワーファリンはINR 2.0を目標に使用.
平均年齢は70歳. PPIは其々34-39%で併用. CHADS2 score ≥2は78%.

Baselineのデータ;

アウトカム;

出血リスクは有意にASAを使用しない群で低くなる. 

一方で, 心血管イベントは両群で有意差無し.
出血リスクが低下する分、死亡リスクも低下している。

ワーファリン使用中の患者では, PCI後もASA+Clopidogrel+Warfarinではなく、
Clopidogrel+Warfarinでも問題なし、むしろ出血リスクは低下するので勧められるということか。

それは願ったり叶ったり。


2013年2月13日水曜日

Meckel憩室

Meckel憩室, メッケル憩室, Meckel diverticulum

先天性の腸管奇形の1つ.
 全人口の2%で認められ, 男女比は2:1,
 また, 2歳未満で最も多く発見される.
 Meckel憩室の部位は, バウヒン弁から2Feet(61cm)以内に多い
 通常無症候性で, 手術中に偶発的に発見されることが多いが, 高齢者で有症状となることもある.
(Southern Medical Journal  2004;97:1038-1041)

Mayo clinicの1476例の解析では, (Ann Surg 2005;241: 529 –533)
1950-2002年に術中に診断されたMeckel憩室例1476例のReview
 症候性は238例(16%)で, 無症候性が1238例(84%)
 症候性の年齢分布は, 平均年齢が31±23.6y, 0歳と10歳〜20台で最多となる.


症候性のMeckel憩室の男女比は小児, 成人双方で3:1.
 一方, 無症候性では小児群では3:1だが, 成人例では男性58% vs 女性42%とほぼ同等となる.
症候性の症状
 成人例, 小児例共に出血, 閉塞, 憩室炎が主な症状となる.

切除部位の病理結果
症候性では異所性胃粘膜が多い.

Meckel憩室の診断
疑えばメッケルシンチ(99mTcO4)を考慮する.
異所性胃粘膜への集積を利用するシンチグラム.
下血を来すような場合は異所性胃粘膜である事が多いため, 診断率も81-95%と良好.

原因不明の下部消化管出血の際には要チェック

2013年2月7日木曜日

レクチャー TTP HUS

Thrombotic Thrombocytopenic Purpura
Hemolytic Uremic Syndromeについて