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2013年1月29日火曜日

虚血性心疾患患者へは輸血を控えた方が良いのか?


以前より心筋梗塞患者における輸血療法は予後を悪くするとの指摘はあった.
それに関するMeta-analysisが発表 (JAMA Intern Med 2013;173:132-139)

MI患者に対する輸血量法を比較した10 trialsのmeta-analysis.
ACS患者への輸血と予後を評価したprospective, retrospective cohort 9つ, RCT 1つのMeta-analysis.

輸血施行群 vs 非施行群を比較すると, 全死亡リスク, MI発症リスクは有意に上昇する.
アウトカム
Liberal
Restricted, No
RR
NNH
全死亡リスク
18.2%
10.2%
2.91[2.46-3.44]
8
MIリスク


2.04[1.06-3.93]



Publication biasも無く, やはり輸血はMI患者にはダメ?

ただし, この10 trialsのうち, RCTは僅か1つのみ.
それもN=45の小規模trial. 下表のCooper et al 2011 (Am J Cardiol 2011;108:1108–1111)
そのRCTにおけるデザインは, 
Liberal群; Ht<30%で輸血施行し, Ht 30-33%に維持.
Restricted群; Ht<24%で輸血施行し, Ht 24-27%に維持するプロトコール

他のCohortは要は◯◯人のMI患者がいて, ××人で輸血しました。
いろいろな多変量解析を行うと、輸血した人達の予後が悪かったです、と言っている程度。Cohortの中にはProspectiveやPropensity-matchedといったような比較的Evidence Levelが高いものはあるが, それでも限界はある。
輸血の適応となる時点で予後は悪いと言わざるを得ない.

各Study別のアウトカムをみてみると

唯一のRCTは実は優位差は無し.
でもたかがN=45であり、それもアテにはできない。

まぁ、つまり、この分野はまだまだEvidenceが乏しく, 結論できない.

敗血症性ショックへのステロイドは持続注射で

敗血症性ショックに対するステロイドについては以下を参照。
敗血症性ショックとステロイド

SSCG 2012では敗血症性ショックの際のステロイドは補液、昇圧剤で反応のない低血圧を伴う症例で推奨されており、Hydrocortisone 200mg/dを持続注射で投与することを推奨している.

持続投与の根拠は?


Intensive Care Med (2007) 33:730–733
16名のSeptic shock患者のProspective studyにおいて,
Hydrocortisone 200mg/dの持続投与と, 50mg 6hrの間欠投与双方を行い, 血糖の変化を評価.


左図; カロリー量, インスリン量と血糖の変化.
 Bolusすると徐々に血糖が上昇し, Bokus後6hrで血糖が最大となる.
 一方, 持続投与ではその血糖変動は無く,
 安定した値で一定する傾向がある.

右図; 各患者における持続投与時の血糖とBolus投与時の血糖の比較.
 どの患者でもBolus投与すると血糖は上昇する傾向にある.

同じ1日量を投与するならば、持続投与の方が血糖が安定し易い利点がある.
特にICU管理でインスリンも使用する状況ならば安定していた方がやり易く、低血糖リスクも低くなると思う。

2013年1月28日月曜日

Surviving Sepsis Campaign 2012の概要

Crit Care Med 2013; 41:580–637
概要のみです。
詳しいEvidenceはまた余裕があるときに。


訂正; K 血液製剤の輸血の適応について, *の部分の処決精神疾患 ⇒ 虚血性心疾患です...(涙)

敗血症性ショックに関するブログリンク
敗血症性ショックとステロイド
敗血症性ショックへのステロイドは持続注射で
敗血症性ショックにはCoolingを
敗血症性ショックに対するActivated Protein C; PROWESS-SHOCK trial



2013年1月27日日曜日

SBチューブについてのアンチョコ


  • SBチューブの使い方; TSBチューブ
    • 胃バルーンの空気は250-300mlで拡張
    • 食道バルーンは圧でコントロール; ()内はオススメ設定
    •  4.0-4.7kPa (30-35mmHg) ⇒ 40〜47cmH2Oで開始 (45cmH2O)

    • 30分毎に胃残渣を確認し, 出血が持続している場合は
    •  0.67kPa (5mmHg) ⇒  6.8cmH2O; キリ良く5cmH2OずつUP
    •  最大6.0kPa(45mmHg) ⇒ 61.2cmH2O (60cmH2O)までUP.

    • 出血が止まっている場合は反対に5cmH2OずつDOWN.
       最小3.3kPa(25mmHg) ⇒ 34cmH
      2O (35cmH2O)までDOWN.
       その状態で最低12時間保つ.
    • 30分毎のチェックが困難ならばその辺は適宜調節.

    • 道バルーンは, 粘膜壊死予防に6時間毎に5分間脱気する必要がある.
    • また, 尖端には500gの重り(補液バック)をつけ, 牽引する

2013年1月23日水曜日

髄膜炎に対するJolt accentuation of headacheは要注意 (2013/5/27更新)

(Headache 1991;31:167-71の著者である内原俊記先生に論文とコメントをいただきました。)

髄膜炎を否定する為にJoltとったん? という会話はいくつもの研修病院でされていることでしょう。でもその元文献まで知っている人は?

Jolt accentuation of headacheというのは患者が能動的に首を左右に2-3Hzの早さで振り、頭痛が増悪するかどうかを診る身体所見のこと。

これが初めて提唱されたのが、1999年のHeadacheという文献
(Headache. 1991 Mar;31(3):167-71.)
54名の発熱+急性発症の頭痛患者を対象としたProspective Study

2週間以内の新規発症の頭痛で, 37度以上の発熱(+)の外来, ER, 入院患者を対象
(入院患者は元々別の疾患で入院中の患者)
筋緊張性頭痛, 片頭痛と判断された症例は除外. また, Joltや神経学的評価が困難な程の意識障害患者も除外. 明らかな神経学的異常を認める患者群も除外されている.

上記を満たす54名において身体診察, LPを行い, 髄膜炎に対する感度, 特異度を評価.

母集団のうち, LPにて細胞数上昇は34例 (63%), 髄膜炎は30例 (56%)

アウトカム;
症状
Sn(%)
Sp(%)
頭痛の既往
26.5%
75.0%
非拍動性頭痛
79.4%
15.0%
全体の頭痛
55.9%
50.0%
嘔気, 嘔吐
32.4%
60.0%
上気道症状
45.8%
65.0%
下痢
2.9%
85.0%
体温≤38
70.6%
45.0%
咽頭発赤
26.5%
80.0%
頸部リンパ節腫大
29.5%
90.0%
Dental caries
8.8%
85.0%
WBC≤10000
29.4%
56.3%
CRP(+)
50.0%
43.8%
項部硬直
14.7%
100.0%
Kernig徴候
8.8%
100.0%
Jolt accentuation
97.1%
60.0%



近頃、Jolt陰性の髄膜炎を数例診たので、追試が無いかどうか調べた所、2010年に1つだけ出ていた。
Clinical Neurology and Neurosurgery 112 (2010) 752–757
髄膜炎を疑う*≥12yの患者群190名のProspective study
*発熱+頭痛+意識障害 ± (痙攣, 神経局所症状)で定義. 
この症状で入院した患者群で髄膜刺激症状を評価し, CSF所見による髄膜炎診断に対する 感度, 特異度を評価.
 ⇒ 髄膜炎は99人で診断(52%)

Baseline;

結果; 髄膜炎に対する感度, 特異度
髄膜炎
Sn(%)
Sp(%)
LR+
LR-
項部硬直
39.4[29.7-49.7]
70.3[59.8-79.5]
1.33[0.89-1.98]
0.86[0.7-1.06]
Jolt sign
6.06[2.26-12.7]
98.9[94-100]
5.52[0.67-44.9]
0.95[0.89-1.0]
Kernig’s sign
14.1[7.95-22.6]
92.3[84.8-96.9]
1.84[0.77-4.35]
0.93[0.84-1.03]
Brudzinski’s sign
11.1[5.68-19]
93.4[86.2-97.5]
1.69[0.65-4.37]
0.95[0.87-1.04]

CSF-WBCの値別に解析した感度, 特異度
CSFWBC 6-100/µL
Sn(%)
Sp(%)
LR+
LR-
項部硬直
36.4[20.4-54.9]
70.3[59.8-79.5]
1.23[0.70-2.13]
0.90[0.67-1.21]
Jolt sign
0[0-20.6]
98.9[94-100]
-
1.01[0.98-1.03]
Kernig’s sign
6.1[0.74-20.2]
92.3[84.8-96.9]
0.79[0.17-3.6]
1.02[0.91-1.13]
Brudzinski’s sign
6.1[0.74-20.2]
93.4[86.2-97.5]
0.92[0.19-4.33]
1.01[0.91-1.11]

CSFWBC 101-1000/µL
Sn(%)
Sp(%)
LR+
LR-
項部硬直
50[35.5-64.5]
70.3[59.8-79.5]
1.69[1.11-2.57]
0.71[0.52-0.96]
Jolt sign
12[4.53-24.3]
98.9[94-100]
10.9[1.35-88.2]
0.89[0.80-0.98]
Kernig’s sign
24[13.1-38.2]
92.3[84.8-96.9]
3.12[1.31-7.42]
0.82[0-0.97]
Brudzinski’s sign
18[8.58-31.4]
93.4[86.2-97.5]
2.73[1.03-7.23]
0.87[0.76-1.01]

CSFWBC >1000/µL
Sn(%)
Sp(%)
LR+
LR-
項部硬直
12.5[1.55-38.3]
70.3[59.8-79.5]
0.42[0.11-1.6]
1.24[0.99-1.56]
Jolt sign
0[0-20.6]
98.9[94-100]
-
1.01[0.99-1.03]
Kernig’s sign
0[0-20.6]
92.3[84.8-96.9]
-
1.08[1.02-1.15]
Brudzinski’s sign
0[0-20.6]
93.4[86.2-97.5]
-
1.07[1.03-1.16]

髄膜炎の原因別の感度, 特異度
無菌性髄膜炎(62)
Sn(%)
Sp(%)
LR+
LR-
項部硬直
29.0[18.2-41.9]
70.3[59.8-79.5]
0.97[0.59-1.62]
1.01[0.82-1.24]
Jolt sign
1.61[0.04-8.6]
98.9[94-100]
1.47[0.09-23.0]
0.99[0.95-1.03]
Kernig’s sign
6.45[1.79-15.7]
92.3[84.8-96.9]
0.83[0.25-2.74]
1.01[0.92-1.11]
Brudzinski’s sign
4.84[1.01-13.5]
93.4[86.2-97.5]
0.73[0.19-2.82]
1.02[0.94-1.11]

TB髄膜炎(30)
Sn(%)
Sp(%)
LR+
LR-
項部硬直
56.7[37.4-74.5]
70.3[59.8-79.5]
1.91[1.22-2.98]
0.61[0.40-0.94]
Jolt sign
10.0[2.1-26.5]
98.9[94-100]
9.1[0.98-84.2]
0.91[0.80-1.03]
Kernig’s sign
23.3[9.93-42.3]
92.3[84.8-96.9]
3.03[1.25-7.95]
0.83[0.67-1.02]
Brudzinski’s sign
23.3[9.93-42.3]
93.4[86.2-97.5]
3.54[1.29-9.71]
0.82[0.66-1.01]

細菌性髄膜炎(7)
Sn(%)
Sp(%)
LR+
LR-
項部硬直
57.1[18.4-90.1]
70.3[59.8-79.5]
1.93[0.94-3.94]
0.60[0.25-1.45]
Jolt sign
28.6[3.67-71.0]
98.9[94-100]
26.00[0.26-253]
0.72[0.45-1.15]
Kernig’s sign
42.9[9.9-81.6]
92.3[84.8-96.9]
5.57[1.83-17]
0.61[0.32-1.18]
Brudzinski’s sign
14.3[0.36-57.9]
93.4[86.2-97.5]
2.17[0.30-15.6]
0.91[0.67-1.25]

CSF-WBCが高い中等症〜重症では意識障害や痙攣などによりJolt accentuation of headacheの感度が下がるのは分かるが, 軽症例髄膜炎や無菌性髄膜炎での感度もショボい.
反対に特異性はかなり高い
 1991年のHeadacheから出された結果と真逆.

Headache 1991の母集団は,
2週間以内の新規発症の頭痛で, 37度以上の発熱(+)の外来, ER, 入院患者*を対象
(*入院患者は元々別の疾患で入院中の患者)
筋緊張性頭痛, 片頭痛, Joltや神経学的評価が困難な程の意識障害患者は除外. 明らかな神経学的異常を認める患者群も除外

一方で, 後者のStudyでは,
急性の発熱+頭痛+意識障害 ± 神経学的異常 or 痙攣 を満たす入院した患者

意識障害に関してはHeadacheでは “評価が困難な例は除外” との記載であるが, 後者では記載は無い. ただし全例でJolt, Kernig, 項部硬直は評価できている(Fig 1参照).

最も異なるのは[± 神経学的症状 or 痙攣]という項目と,
Setting; [外来, ER, 入院Setting] vs. [症状にて入院した患者群]の違い.
また, 非髄膜炎の患者の疾患も後者のstudyは不明確.
前者はその半数が上気道炎.

後者の方が重症患者を集めているようにも見えるが,
身体所見を取る前の髄膜炎の検査全確率は前者では56%, 後者では52%とほぼ同じ.
後者のstudyの方がより「髄膜炎らしい」患者群を集めているわけでもないし, 前者のstudyがより一般外来に近い検査前確率とも思えない. なんらかのBiasはないのか?

少なくともさらなる追試が欲しいところ。
個人的には信用しすぎるのは危険と思いますが、Joltが使用できるかどうかは各個人の判断にお任せします。
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* ERでのJoltを評価したRetrospective studyが発表されました.
東京多摩医療センターからの報告です. こちらに記載しています