ページ

2012年10月29日月曜日

2012年10月24日水曜日

Precordial Catch Syndrome

18歳男性、主訴胸痛
 特に既往のない男性. 16歳の頃からたまに左前胸部痛を自覚していた。
 疼痛は急速発症で、明らかなトリガーは無し。疼痛は30秒程度持続し改善してゆく経過。疼痛頻度は月1回未満。
 疼痛時は非常に痛みが強く、呼吸や体動ができなくなる。放散痛、動悸、冷汗は無し。

この症例は私自身ですが、最近の外来で良く同じ様な患者さんを診るのでこの際まとめてみます。

----------------------------------------------------------------
Precordial Catch Syndrome (Southern Medical Journal 2003;96:38-41)

小児や若年に多い良性の胸痛
 左前胸部に多く, 限局性の鋭い疼痛. 呼吸にて増悪する.
 疼痛は数秒〜数十秒で消失する.
 肋間筋由来の疼痛と言われている.
 1955年にMillerとTexidorにより10例の報告が出され, Miller自身もPrecordial Catch Syndromeを認めていた.

小児の胸痛で心臓内科紹介された380名中, 15%がPrecordial Catch syndromeであった.
 その内心臓由来の胸痛は1%程度であり, 小児期の胸痛が重大な疾患である可能性は非常に低い (Cardiol Young 2012;Jul 5:1-7)

Precordial Catch Syndromeの特徴


突如発症
胸痛は30秒~3分で治まる. >30minは非常に稀
安静時の発症が多いが, 睡眠時には無い
突如発症で, 完全に治まる
限局性
他に随伴症状が無い
鋭い, 刺される様な疼痛
他に身体所見で異常がない
深呼吸で増悪する



 どの年代でも出現して良いが, 6-12歳が最も多い. また性差は無し

予後は良好で, 治療の必要なく自然に消失する.
(Southern Medical Journal 2003;96:38-41)

2012年10月23日火曜日

再発性のTIAはStrokeリスクにはならない. Capsular warning syndromeが重要


Neurology® 2012;79:1356–1362


1000例のTIA患者のCohort study.
その内170例が7日以内にTIAの再発を認めた.

両群における7日以内のStroke発症率を評価すると,

 全体的なStroke発症率は孤発性TIA群で9.2%, 再発性TIA群では10.6%と同等.
 TIAのタイプ(Cardiac emboli, Large artery arteriosclerosis, Small-vessel disease)では, Small vessel diseaseによるTIAはStroke発症率が高くなる. またABCD2 scoreでも発症リスクを評価することは可能だが, 孤発性か再発性かでリスクを評価することは困難.

 Capsular warning syndromeを認めるTIAは他のTIAと比較してStroke発症リスクが非常に高い.
 Capsular warning syndromeは内包の症状 = 片麻痺を認めるTIAのこと.

 TIA後30日以内のStroke発症率;
Afや50%以上の頸動脈狭窄は特にStrokeリスク因子にはならないか、なったとしても極僅かのみ. それよりもCapsular warning syndromeの方がよっぽどリスクになっている.

 片麻痺を認めるTIAは高頻度で脳梗塞へ移行するため、要注意ということは覚えておきましょう. 

2012年10月19日金曜日

高山病の予防目的のアセタゾラミド

高山病; Acute mountain sickness, high altitude headache
高所にて生じる肺水腫や脳浮腫で, しばしば致命的となる.
多い症状としては頭痛, 悪心, 嘔吐, めまい, 倦怠感, 不眠症状が主で, 3000mに満たない高所でも生じる.
予防としてはゆっくりと登山することが推奨されているが, 3000mを超える登山の場合は薬剤的予防が勧められる.

高山病の薬物予防; Acetazolamide (BMJ 2012;345:e6779)
3000m以上の登山を行う群をAcetazolamide vs Placeboに割り付け, 高山病の頻度を比較した11 RCTsのMeta-analysis.
(Acetazolamide 250mg, 500mg, 750mg/d)
Outcome;
Acetazolamideは有意に高山病のリスクを低下させる. また, Doseは250mgで十分.


Dose
Control
Acetazolamide
RR
NNT
250mg
35%
19%
0.54[0.39-0.74]
6[5-11]
500mg
30%
14%
0.47[0.36-0.62]
7[6-9]
750mg
56%
20%
0.35[0.21-0.57]
3[3-5]
Total
33%
16%
0.47[0.39-0.57]


この情報ニーズあるのかな?

2012年10月17日水曜日

Yellow nail; 黄色爪


1週間の咳嗽を主訴に来院した80台男性.
COPDの既往あるのみ. 身体所見もShort trachea, 樽状胸, 全肺野で呼吸音の減弱あり, COPDに矛盾しない.

手を診ると, 左手のみ爪に異常あり, 右は正常.
左手の爪は肥厚しており, 粗造. 肥厚部位が黄色に見える. さてこの所見は?

-----------------------------------
Yellow nail;
 爪の増生が緩徐となり, 積み重なったような肥厚を示し, 黄色に見える所見.
 リンパ流のドレナージ障害が主な原因となる.

 このYellow nailとリンパ浮腫もしくは慢性呼吸障害を合併した例をYellow nail syndromeと呼ぶ.

Yellow nail syndrome 41名の解析では,
 発症年齢は61歳[18-82], 男女比は同等.
 合併所見としては, リンパ浮腫, 慢性咳嗽, 胸水貯留, 気管拡張, 慢性副鼻腔炎, 再発性肺炎.

 また別の報告では, Yellow nail syndromeに付随する疾患, 所見は, 以下のものが挙げられる.

(Am J Med 2009;122:1085-7)
Major; yellow nail, lymphedema, pleural effusions
他の肺病変
 気管支拡張症, 再発性肺炎,乳糜胸
 Chyloptysis, 睡眠時無呼吸,
 Pulmonary lymphoma
 好酸球性気管支炎, 嚢胞性肺疾患,
腎臓
 ネフローゼ症候群(minimal change)
 黄色肉芽腫性腎盂腎炎, 乳び尿,
上気道病変
 鼻炎, 副鼻腔炎, 喉頭浮腫
心臓
 心嚢液貯留
眼病変
 結膜炎, 胸膜炎
CNS
 意識障害
耳病変
 閉塞性角化症
その他
 非免疫性胎児水種
消化管病変
 腸リンパ管拡張症, 蛋白漏出性胃腸症
 乳び性腹水

悪性腫瘍
 胆管癌, 乳癌, 喉頭癌, NHL, 子宮癌
 胆嚢癌, 転移性肉腫, メラノーマ
 Mycosis fungoides

免疫系
 Selective antibody deficiency
 Macroglobulinemia, Raynaud現象
 甲状腺炎, SLE, RA


Yellow nailの原因疾患(Am J Med 2009;122:1085-7)
Yellow Nail Syndrome
DM, MI, CRF
関節リウマチ(金製剤, ペニシラミン剤)
Brown snake bite
悪性腫瘍 (乳癌, 喉頭癌, non-Hodgkin’s,
 子宮癌, 胆嚢癌, 転移性肉腫, メラノーマ,
 Mycosis fungoides)
薬剤(4,4’ methlenediamine,
 Phenazopyridine,
 divalproex, griseofulvin)
感染症; TB, HIV


今回, COPD + 片側のYellow nail 
 >> 片側のリンパ流の障害を疑わせる病態でCOPDと関連があり, 咳嗽を来す疾患.
   言わずもがなですね。

爪は胸部XPほどにものを言う.

2012年10月12日金曜日

血液腫瘍による血小板減少の血小板輸血のタイミング


Lancet 2012; online first,
Therapeutic platelet transfusion versus routine prophylactic transfusion in patients with haematological malignancies: an open-label, multicentre, randomised study


化学療法中のAML(190), 骨髄移植を予定している血液腫瘍患者(201) 391名のOpen-label RCT.
 出血時のみに血小板輸血を施行する群 vs 血小板<10000/µL時に予防的輸血を行う群に割り付け, 輸血量, 出血リスクを評価.
 患者は16−80歳.
 過去にMajor bleedingの既往(+), Plasmatic coagulopathy(+), 血小板輸血耐性がある患者群は除外

アウトカム

出血時のみに輸血する群では, 血小板輸血は有意に少なくて済む(2/3となる).
当然出血エピソードは増加するものの, RBC輸血量や死亡リスクは有意差無し.

血液腫瘍による血小板減少では血小板輸血は出血時に行うという選択も可能.



2012年10月9日火曜日

Optic nerve sheath diameterと頭蓋内圧亢進

Optic nerve sheath diameter (ONSD); 視神経鞘の径

視神経は頭蓋内と交通しているため, 頭蓋内圧亢進において視神経の所見は出やすい.
一般的なものは視神経乳頭浮腫だが, 実際はこの所見は急性期では出ず, 臨床上使用できるかどうかは怪しいこともある.
そこで、眼球エコーによる視神経鞘径(ONSD)の拡大が注目されている.

ONSDの測定方法
閉眼状態で, 上眼瞼にゼリーと塗布し, 体表エコープローブを用いて評価.(7.5-15Hz)
眼底とそこから下に伸びる視神経が描出され, 網膜から3mm下方の部分で視神経鞘径を測定する (American Journal of Emergency Medicine (2012) 30, 13571363), (Intensive Care Med (2007) 33:1704–1711

頭蓋内圧正常の患者群ではONSDは5mm以下であり, 5mmを超える場合は頭蓋内圧亢進ありと判断. 感度 88%, 特異度 93%.

以下はEvidence;

31名の重症頭部外傷(GCS≤8), 持続ICPモニター必要な患者と31名のControl患者でONSDを評価(prospective, single blinded). (Intensive Care Med (2007) 33:1704–1711)
 7.5MHzのLinear probeを使用し, 眼瞼の上からエコーを施行.
 ICP亢進の定義は最初の48hrで30分以上のICP >20mmHgが持続.

Outcome; 31名中ICP亢進は15例.
Group
ONSD
重症外傷+ICP正常 16
5.1±0.7mm
重症外傷+ICP亢進 15
6.3±0.6mm
Control 31
4.9±0.3mm




ER, 神経内科ICUの患者で持続ICPモニターをしている15例のProspective blinded cohort. 
 計38回の眼エコーを行い, ONSDとICPの関連を評価.
 ICP>20mmHgを頭蓋内圧亢進と定義. (ACADEMIC EMERGENCY MEDICINE 2008; 15:201–204)

ONSDのカットオフと頭蓋内圧亢進に対する感度, 特異度は
ONSD
Sn
Sp
>5.0mm
88%[47-99]
93%[78-99]
>4.5mm
100%
63%



補足ですが、ICP 20mmHgとは27cmH2Oになります。
髄膜炎や脳炎でそこまでICPが上昇すれば分かるかもしれませんが、そういうことはあまり無いのでそのような疾患では使えそうも無いですね。

ICUや在宅ですぐにCTに動かすのが難しい人、透析中患者の意識障害とかでは使えるかも。
あとは、『血圧が高いんです』というよくある主訴で救急を受診した患者で高血圧緊急症評価に使えるかもしれません。

2012年10月4日木曜日

Henoch-Schonlein purpura(治療について)

関連
HSP(小児例)
HSP(成人例)

HSPの治療について (Current Opinion in Rheumatology 2010, 22:598 – 602)
HSPの大半は平均4wk程度で自然緩解する.
 1/3は再発するが, それも4-6ヶ月程度で消失する.

ステロイド[PSL 1mg/kg/d 2wk, その後2wkでtapering] は, 腹痛や関節痛の軽減には効果的だが, 紫斑や腎炎発症予防には効果無し.
2mg/kg/d 1wk, その後1wkでTaperingしたDB-RCT(N=40)では消化管症状, 腎炎予防効果は無し. (BMC Medicine 2004;2:7)

 少なくともステロイドは腎炎の"予防効果"は期待できない.

16y以下のHSP患者171名のDB−RCT (J Pediatr 2006;149:241-7)
 PSL 1mg/kg/d 2wk, 2wkでTapering vs Placeboで比較. 
 1,3,6mo後に評価. (Taperingは0.5mg/kg/dを最初の1wk, その後0.5mg/kg/2d.)

 Outcome; 腹痛, 関節痛軽減効果は期待でき, 腎症状(+)患者群では有意に腎症の軽減効果も認められる. (□ PSL, ■ Placebo)

まとめると, 
ステロイドは腎炎(+)患者群において使用価値がある薬剤と言える.
それ以外は腹痛, 関節痛の緩和効果も期待できるが, 腎炎の発症予防効果は証明されていないのが現状.

重症のHSP腎症に対するステロイドは推奨されるが, 他の免疫抑制剤の併用に関しても有効であるというEvidenceは無く, 小規模の報告にとどまる.
基本的にはステロイドのみで良いという結論となっている.
(Kidney International (2010) 78, 495–502)(Pediatr Nephrol (2009) 24:19011911)



Henoch-Schonlein purpura(成人例)

HSP小児例はコチラ
HSP治療についてはコチラ

成人で, 腎生検目的でコンサルトされた3156名中, 83名がHSP(2.6%).
男性64名, 女性19名. 平均年齢は59歳.
55-70yrが最も多いが, 全年齢層で認められる.
(Clinical Nephrology 2011;76:49-56)

発症時の腎生検結果は,

成人例のHSPN; Lab所見
 ANA, DNA抗体, RFは通常陰性. 補体も正常範囲となることが殆ど.
 IgAは43%で上昇を認める.
 凝固機能は正常であり, PLT低下も認めない.
 高齢者はそれだけで腎予後不良群にはいる.

成人例HSPの基礎疾患
 悪性腫瘍が12例, 感染症が28例, 薬剤が15例
 薬剤では, PC, FQ, CEZ, AMPC, Clarithromycin, IMP, ST合剤, ACE阻害薬, Diclofenac, Nitrendipin, Verapamil.
 他にはFMFに付随するHSP, 先天性C4欠損症に関連するものなど.
 アルコール摂取との関連もあり, 83名中40%がアルコール依存患者.

関連; 
HSP(小児例)
HSP(治療について)

Henoch-schonlein purpura(小児例)


補足
HSP(成人例)について
HSP(治療)について


Henoch-schonlein purpura; (Current Opinion in Rheumatology 2010, 22:598 – 602)

Small vesselにleukocytoclastic vasculitisとIgA1沈着を認める病態.
 IgAにはIgA1とIgA2の2つあり, その内IgA1のみが関与する.
 全身の血管に生じ, 多いのは皮膚(紫斑), 関節痛, 腹痛, 消化管出血, 腎炎(MesangiumにIgA沈着あり; IgA腎症).
 感染や薬剤, 環境因子が発症のtriggerとなり得る.
 小児の血管炎で最も多い原因であり, 10-20/100000小児-yrの発症率
 通常4wk程度で自然寛解するが, 腎炎合併例は慢性化するため, 治療が異なる. 要注意となる.
 遺伝の関与も大きく, HLA-DRB1*01, HLA-DRB1*11, HLA-DRB1*14が関与. HLA-B35は腎症の発症リスクとなる.
 FMF(Familial Mediterranean fever)の7%でHSPを合併. (MEFV遺伝子との関連が示唆)
A群β溶連菌感染との関連も言われている
 IgA結合streptococcal M蛋白がmesangium, 皮膚血管に沈着することでHSPを発症すると報告されている.

[小児におけるHSP]

HSPの症状
≤16yrの小児例171名の評価では, (発症から4.7-6.4dでの評価(0-63d))

(J Pediatr 2006;149:241-7)
症状
頻度
腎症状
18.7%
Petechiae
100%
タンパク尿 200-300mg/L
5.3%
腹痛
38%
血尿 6-10/HPF
8.2%
関節痛
70.8%
血尿 + タンパク尿
5.3%


≤16yrの小児例223名のLab評価

(Arch Dis Child 2010;95:877–882)
ESR上昇
51.4%
C3上昇
5.7%
CRP上昇
37.4%
C3減少
1.1%
IgA上昇
29.1%
C4上昇
2.3%
IgE上昇
30.8%
C4減少
2.9%
IgG上昇
8.4%
ANCA陽性
14.3%
IgM上昇
2.3%




HSP腎炎(Arch Dis Child 2010;95:877–882)
HSPの30-50%で腎炎を合併.
血尿, タンパク尿で生じることが多い.
基本的に腎炎も予後良好であり, 自然緩解するのが殆ど.  ESRDまで進展するのは1%程度.

223名の小児HSP患者のProspective study
男児122, 女児101, 発症後平均7d[0-65]経過. 102名(46%)で腎炎(+)


腎症状のタイプ

血尿; ≥5/HPF or Dipstickで陽性
14%
タンパク尿; P>200mg/L, Alb>30mg/L or Dipstickで陽性
9%
血尿 + タンパク尿
56%
Nephrotic-range proteinuria; 24hr-Prot >40mg/m2/h
20%
Nephrotic-nephritic syndrome; RBC >200/HPF, 24hr-Prot >40mg/m2/h,
 + 以下の3つ中, 2つ以上認める(乏尿, HT, 腎障害)
1%

HSP発症〜腎炎発症までの期間
発症2wk以内に腎炎が出現することが多い. 少なくとも2mo以内での発症はあり得る.

HSPN; 年齢別発症率
>8yrは発症リスクとなる(OR2.7[1.4-5.1])
他のリスクファクターは, 腹痛 OR2.1[1.1-3.7], HSP再発 OR 3.1[1.5-6.3]
IgA, G, Mの値, 補体値, ANCA, 炎症マーカーの値は腎炎リスクにはならない.

慢性腎不全のリスク(Acta Pædiatrica 2009 98, pp. 1882–1889)
血尿単独 or タンパク尿単独群では, 慢性腎不全への移行率は1.6%のみ.
 一方で, Nephritic, nephrotic syndrome例では19.5%と高頻度となる.
 各腎障害typeとCKDリスク


腎症状のタイプ
CKD移行率
顕微鏡的血尿, 微量タンパク尿
<5%
血尿, タンパク尿
5-15%
Acute nephritic syndrome
~15%
Nephrotic syndrome
~40%
Nephritic-nephrotic syndrome
45-50%


補足
HSP(成人例)について
HSP(治療)について

2012年10月1日月曜日

虚血性視神経症(Ischemic Optic Neuropathy)

80台男性, 3日前からの両側の視力障害.
左眼は完全に光覚弁、右眼も耳側下方の1/4を残して他は光覚弁の状態。
眼球運動問題無し。対光反射は, 左の直接、間接対光反射消失。右は直接, 間接ともに反射あり。
眼底所見は左視神経乳頭浮腫あり。出血なし。右視神経乳頭問題無し。
他の脳神経所見、四肢麻痺無し。
顎跛行無し。頭痛なし。発熱、体重減少無し。首はちょっと痛いと言っているのみ。
---------------------------------------------------------

視神経炎? 虚血性視神経症?

虚血性視神経症 (Ischemic Optic Neuropathy) (Indian J Ophthalmol: 2011;59:123-136)
視神経の血流は大きく2つの支配を受ける.
 視神経の前方はPCA(Posterior ciliary artery)から血流を受けそれ以外はPCAではなく, 他の複数の血管から血流を受けている.


PCAから血流を受ける視神経の障害を “Anterior ischemic optic neuropathy”(AION)と呼び,
それ以外は “Posterior ION”と呼ぶ

AIONにはさらに2つに分類;
 Arteritic AION; 動脈性の虚血であり, 大半がGiant cell arteritisより.
  稀な例としてPN, SLE, VZVが原因となることもある.
 Non-arteritic AION; 上記以外の虚血. 原因が不明なものも多い.
PIONは3つに分類;
 Arteritic PION; Giant cell arteritisにより生じる虚血
 Non-arteritic PION; GCA以外の原因による虚血
 Surgical PION; 外科手術に伴う虚血.

NA-AIONについて (Singapore Med J 2012; 53(2): 88–90, J Ophthalmol 2011;4:272-274)
高齢者に生じる視覚障害で, 視神経乳頭部の虚血による視力障害を呈する.
 何故視神経乳頭部の虚血を生じるかは分かっていない.
 50歳以上の人口では, 2.3-10.2/100000/yの発症率.
 機能予後も視神経炎に比べて悪く, 失明の重大な原因の1つ.

Singapore National Eye Center (SNEC)で5年間で診断したNA-AIONは121例.
特徴

男性例
56%
年齢
36-89y
初発年齢
61y
両側性
9.8%


 視力障害, 視野障害の予後; 6ヶ月後の評価

視力
Base
変化無し
改善
増悪
6/6-6/9
21(40%)
21
0
0
指数弁, 手の動きのみ感知
15(28%)
12
1
2
その他
17(32%)
12
3
2
全体
53(100%)
45
4
4

視野欠損
Base
変化無し
改善
増悪
鼻側下方
24(45%)
20
4
0
耳側下方
16(30%)
12
2
2
耳側上方
4(7.5%)
3
1
0
中心暗点
4(7.5%)
1
1
2
その他
5(10%)
5
0
0
全体
53(100%)
41
8
4

 視神経炎と異なり, 長期予後はかなり悪い. 視力障害が改善する例はかなり少ない.

NA-AIONの治療; (Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol. 2008;246:1029-1046)
 治療に関しては色々と議論されており, 確定されたものは無いのが現状.
 ステロイドに関してはProspective cohortで視野, 視力障害の改善が見込める.
NA-AION 613名のProspective cohort (non-RCT)
 312名にステロイドを投与, 301名はステロイド無しで比較.
 ステロイドは, PSL 80mg/d 2wk, 70mg/d 5d, 60mg/d 5d, 以後5dで5mg毎Tapering

アウトカム; ステロイド投与群の方がより視覚障害改善が良好の可能性
 Visual acuityの改善を認めた割合;
期間
ステロイド
No ステロイド
OR
乳頭浮腫改善時
44.2%[33.1-56.0]
21.2%[13.2-32.2]
2.95[1.42-6.17]
初診~3mo
47.1%[35.8-58.7]
16.7%[9.6-27.3]
4.45[2.03-9.75]
初診~6mo
69.8%[57.3-79.9]
40.5%[29.2-52.9]
3.39[1.62-7.11]
初診~1y
72.2%[60.2-81.6]
39.0%[27.6-51.7]
4.06[1.92-8.57]



 視野障害を認めた割合
期間
ステロイド
No ステロイド
OR
乳頭浮腫改善時
36.6%[29.7-43.9]
19.6%[13.8-27.0]
2.36[14.1-3.96]
初診~3mo
37.7%[30.8-45.0]
19.7%[13.9-27.2]
2.47[1.48-4.12]
初診~6mo
40.1%[33.1-47.5]
24.5%[17.7-32.9]
2.06[1.24-3.40]
初診~1y
40.0%[33.0-47.3]
24.7%[17.8-33.1]
2.03[1.23-3.36]


 ここから分かることは, ステロイド投与する価値があるという点と, 改善は発症~6moまで認め得るが, それ以降は改善の見込みは乏しいという点.

A-AIONの治療 (Indian J Ophthalmol: 2011;59:123-136)
A-AIONは大半がGCAに伴うもの. 従ってステロイドが治療となる.
投与のタイミング, 量に関しては一致した見解がないのが現状.
A-AIONでは視力障害, 機能予後が非常に重要であり, この文献の著者は以下を推奨している.
 GCAの症状(+), ESR高値例, 急激な視力障害では, 側頭動脈生検を待たずにステロイド投与を考慮すべき.
 平均Doseは80mg/d(1-1.5mg/kg/d).
 ステロイドはESR, CRPが陰性化するまで継続(2-3wk) その後徐々にTaperingを開始する.
 それでも一旦失われた視覚障害が改善する見込みは乏しい.

NA-AION vs A-AIONの鑑別点
A-AIONならば血管炎の治療が重要であり, NA-AIONでは明らかな治療方法が無く, 両者の鑑別は大事.
 ● A-AIONならば, 全身状態をチェック. GCAならば顎跛行(OR9.0), 頸部痛(OR3.4), 食欲不振がある. 他にもGCAの所見をチェックすることは大事. 側頭動脈エコー, 生検など.
 ● 一過性黒内障はA-AIONを示唆し, NA-AIONでは極めて稀.
 ● 炎症反応高値はA-AIONを示唆.  NA-AIONでは通常炎症所見は高値とならない.
 ● <50yではGCAは稀.
 ● 早期の著明な視力障害(指数弁, 光覚弁)はA-AIONの54%で認める一方, NA-AIONの14%のみ.
 ● Chalky white optic disc edemaはA-AIONの69%で認める一方, NA-AIONでは稀な所見であり, 特異性が高い.
 Chalky white optic disc edemaとは白みがかった乳頭浮腫で, 下図を参照;
 A-AIONでは乳頭浮腫は白みがかかり, NA-AIONでは赤みがかかる.
 ● A-AIONではCilioretinal arteryの閉塞が認められる.
 ● Fluorescein fundus angiographyにてPCA閉塞があればA-AION.
 ● Choroidal fillingがPCAから認められないことから診断可能. ただし, 発症後数日以降では側副血行路があり, 所見がハッキリしない場合がある.
 ● 側頭動脈生検; GCAの診断として.

NA-AION vs 視神経炎の比較 (Korean J Ophthalmol 2011;25(1):33-36)

高齢発症 vs 若年発症, 眼痛の有無が見分けるポイントとなり得る
視野障害の程度, 視覚障害は特に有意差無し.
また, MRI所見や眼底所見でも見分けることは困難.