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2012年9月29日土曜日

低尿酸血症を伴う運動誘発性急性腎不全


20台前半の男性。特に既往は無し。
体力テストにて100mの全力疾走後、数時間経過してから腰背部痛が出現。
近位受診し、投薬うけるが改善せず、2日後に浮腫が出現したため、再度受診。
血液検査にてCre 8台と著明高値であり、紹介入院。その際の尿酸値4.0mg/dL。
CPK正常。

さて診断は?

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Exercise-induced acute renal failure associated with renal hypouricemia
(Nephrol Dial Transplant 2004;19:1447-53)

低尿酸血症を伴う運動誘発性急性腎不全
 先天性の腎性低尿酸血症を示し, 運動後にARFを併発する病態.
 54名の解析では48名が男性と男性で多い. 初発年齢は17yr[11-46].
 尿酸値は通常0.70±0.25[0.1-1.4]と低値を示す.
 ARF時はCre 5.45±3.33mg/dL, UA 4.40±2.49. Cre>UAとなるのが特徴.
 FENaは0.013-9.5%, 平均2.0%, <1.0%が9例, 1-2%が11例.

60例の解析によると, 症状頻度は以下の通り. 悪心嘔吐や腹痛, 鼠径部痛が多い.
悪心 嘔吐
51/60
腹痛
22/60
倦怠感
16/60
鼠径部痛
35/60
発熱
7/60
乏尿
0/60

発症のタイミングは, 
運動後12hrで75%,
24hrで84.6%, 
48hrで98.1%,
72hrで100%発症している.

発症季節は春と秋が多い

4-6月は体力測定, 9-10月は運動会が多いため, ARFエピソードも多い
男性の頻度が多いのも, 運動習慣に関連している可能性が高い.
24.1%が再発を繰り返し, 一番多い例は6回のエピソード.

尿酸調節障害を評価したのは35/54で,
 26例でPre-secretory reabsorptive defect,
 2例でPost-secretory reabsorptive defect,
 2例でTotal reabsorptive defect, 
 5例で尿細管分泌亢進を認められた.

28例で腎生検試行
 組織形は微小変化が6例,
 急性尿細管壊死所見が22例認められた.

再発予防教育
 運動制限, NSAID使用の回避, 運動後の飲水, ビタミン剤など
 様々な指導がされるが, 有意に再発予防に繋がるのは運動制限のみ.

ちなみに, Renal hypouricemia; 男性の0.16%, 女性の0.23%
Renal hypouricemia 32名の解析では,
 UA値は 0.93±0.49mg/dL, 全例で2mg/dLを超えることは無かった.
 CUAは68.3±31.6ml/min, CUA/CCrは0.584±0.264.
 運動誘発性急性腎不全エピソードを経験したのは3例.
 尿路結石症は4例.
 慢性腎不全となったのは2例のみだが, その内1例は高血圧に伴うもので, この病態自体でCKDとなる可能性は極めて低い.
(J Am Soc Nephrol 15: 164–173, 2004)




2012年9月25日火曜日

COPDの安定期の治療; GOLD guideline 2011より

GOLD guideline 2011より, 安定期のCOPDの治療薬選択について.

以前は呼吸機能検査の1秒率により治療薬選択をしていたが, 2011年Guidelineでは, それ以外に自覚症状(mMRC, CAT), 急性増悪頻度で(A)-(D)に分類し, その群毎に推奨治療を規定している.

GOLD 1; FEV1 80%,
GOLD 2; FEV1 50-80%
GOLD 3; FEV1 30-50%
GOLD 4; FEV1 <30%
Group
呼吸機能
急性増悪/
mMRC
CAT
A
GOLD 1-2
≤1/
0-1
<10
B
GOLD 1-2
≤1/
≥2
≥10
C
GOLD 3-4
≥2/
0-1
<10
D
GOLD 3-4
≥2/
≥2
≥10



各群の推奨治療
Group
1st choice
2nd choice
追加治療
A
短期作用型 抗コリン吸入
もしくは
短期作用型 β2刺激薬吸入
長期作用型 抗コリン吸入
もしくは
長期作用型 β2刺激薬吸入
もしくは
短期作用 抗コリン + β2
テオフィリン
B
長期作用型 抗コリン吸入
もしくは
長期作用型 β2刺激薬吸入
長期作用型 抗コリン吸入

長期作用型 β2刺激薬吸入
短期作用型 抗コリン吸入
もしくは/
短期作用型 β2刺激薬吸入
C
ICS+長期作用型β2
もしくは
長期作用型抗コリン薬
長期作用型 抗コリン吸入

長期作用型 β2刺激薬吸入
PDE-4阻害薬
短期作用型 抗コリン吸入
もしくは/
短期作用型 β2刺激薬吸入
テオフィリン
D
ICS+長期作用型β2
もしくは
長期作用型抗コリン薬
ICS+長期作用型抗コリン
ICS+
長期作用型β2+抗コリン
ICS+
長期作用型β2+PDE-4阻害薬
長期作用型抗コリン+長期作用型β2
長期作用型抗コリン+PDE-4阻害薬
カルボシステイン
短期作用型 抗コリン吸入
もしくは/
短期作用型 β2刺激薬吸入
テオフィリン



自覚症状の評価; CAT, mMRC
CAT; COPD Assessment Test; 8項目を0-5点で評価. 0-40点

点数

咳はしたことがない
0 1 2 3 4 5
常に咳をしている
喀痰は全くない
0 1 2 3 4 5
喀痰が非常に多い
胸部の苦しさは無い
0 1 2 3 4 5
非常に胸が苦しい
階段を上っても大丈夫
0 1 2 3 4 5
階段を上がると苦しい
特にADLの障害は無い
0 1 2 3 4 5
ADLが酷く障害されている
呼吸の状態に関わらず, 外出できる
0 1 2 3 4 5
呼吸の性で外出ができない
しっかりと睡眠がとれている
0 1 2 3 4 5
睡眠がとれていない
エネルギーに満ちあふれている
0 1 2 3 4 5
エネルギーが枯渇している



mMRC; modified Medical Research Council
Grade

0
負荷のかかる運動のときのみに呼吸苦がある
1
高所へ上る時や平面を急ぐ時に呼吸苦がある
2
呼吸苦で同世代の人よりもゆっくりしか動けない
3
数分の歩行で息切れして休んでしまう
4
呼吸苦で家から出れない. 着替えでも呼吸苦がある


2012年9月23日日曜日

アルコール性ケトアシドーシス (AKA)

アル中患者に良く認められるAG開大性Acidosis (Emerg Med J 2006;23:417-20)
 エタノールだけでなく, メタノール, エチレングリコールでも起こる(代謝産物でAcetoacetate, β-hydroxybutyrateを生じる)
 腹痛, 悪心嘔吐など非特異的な症状 ~ 心停止と様々
 心停止の直接原因は不明(BOHBが関与? or 電解質異常?). アルコール中毒の突然死の10%を占めるとされる
 低血糖を伴うことも多く, 血糖Checkも必須.
 61%Lactic Acidosisを合併する

Keton = 脂質の代謝産物, DM, 妊娠, 飢餓, CHO制限時に認める.
 尿中ケトンはDKAの検出は可能だが, AKAでは陰性のことが多い.
 DKAに対して感度99%, 特異度69% (Ann Emerg Med 1999;34:342-6)
 AKAでは感度45%[13-89]
 尿中ケトン検査はAcetoacetate(AcAc)を検出しBOHB : AcAc比は  DKA3:1, AKA7:1.
 ⇒ AKAではBOHBが多く, AcAcが少ないため, 尿ケトンが陰性.



AKAの初発症状 (Am J Med 1991;91:119-28)
 74名のAKA患者の解析
症状
%
所見
%
悪心
76%
頻脈(>100/min)
58%
嘔吐
73%
多呼吸(>20/min)
49%
腹痛
62%
腹部圧痛
43%
呼吸苦
20%
便潜血陽性
18%
振戦
20%
肝腫大
18%
吐血
19%
意識障害
15%
めまい
19%
低血圧(<100mmHg)
12%
筋肉痛
10%
腹部膨満
5%
発熱
8%
低体温
4%
下痢
7%
発熱
3%
失神
4%
腸蠕動音低下
1%
痙攣
3%
腹部反跳痛
1%
黒色便
1%




AKAの合併症
疾患
%
膵炎
36%
筋症/横紋筋融解
18%
胃炎/GI出血
16%
痙攣
15%
肝炎/肝硬変
12%
アルコール離脱
11%
低血糖
8%
感染症
8%
アルコール中毒
4%
心血管イベント
3%
神経症, 麻薬中毒,
子宮出血, Af, 鼻出血
1%
 AKAでは背景の合併疾患への注意が大事

AKAの血液検査異常所見
 低血糖も高血糖も起こりえる. アミラーゼも高値になることが多い.

AKAのマネージメント
補液は5%TZBetter
 NS大量補液後はLacの低下は認めるものの, BOHBは上昇する.
 Cl性アシドーシスもあり, 代謝性アシドーシスが増悪する可能性.
 血糖補正, K補正, Thiamine投与も同時に行う
 他の電解質Checkとその補正; Mg, P
 Sepsis, 腹腔内感染, 急性腹症の除外が大事.