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2012年8月30日木曜日

ラクナ梗塞例の再発予防はアスピリンで十分

NEJM 2012;367:817-25

SPS3 trial; 180日以内に症候性ラクナ梗塞を来した3020名のDouble-blind RCT.
 両群にアスピリン325mg/dを投与し, さらに クロピドグレル75mg vs Placeboに割り付け, 脳梗塞, 脳出血の再発率を比較.
 3.4年間フォローし, 両群のアウトカムは以下の通り



 脳梗塞、脳出血のリスクは両群で同等.
 アスピリン+クロピドグレルの併用療法では消化管出血のリスクが有意に上昇する.

Subgroup解析でも特に有意差を認める群は無し.

ラクナ梗塞の二次予防ではアスピリンで十分。

2012年8月29日水曜日

小児の腸重積のエコーは素人でも可能?

Ann Emerg Med 2012;60:264-268

回腸-結腸の腸重積が疑われる82名のProspective study.
 超音波検査の経験がない医師が1時間の指導を受け, USにて患者を評価.
 Reference standardは専門医による超音波検査での診断.

 患者は25ヶ月[3-127], 腸重積は13例(16%)で診断.
 患者群のデータ;


未経験医師のUSの感度, 特異度は
Sn 85%[54-97], Sp 97%[89-99], 
LR+ 29[7.3-117], LR- 0.16[0.04-0.57] で腸重積を診断可能.


ちなみにエコーのレクチャーは,
5-10Hzのプローブを用いて, 右下腹部より水平断を描出しつつ上行。肝臓が見えたら時計回りに回転させ, 今度は矢状断を描出しながら左上腹部へ。その後半時計回りにして、水平断を描出しつつ下行する。
画像の様な像が認めれば診断するようなプロトコール.

教育ではシミュレーションを使用し、画像パターンの説明と実技をおこなった。

2012年8月28日火曜日

TIAにおけるABCD1-3ルール

TIA患者で問題となるのは, TIA後の脳梗塞発症リスクが高いという点.
どのくらいのリスクかを推定するのに有名なのはABCDルール.
現在ABCDルールは ABCD, ABCD2, ABCD3, ABCD3-I まで出現してきており, 現時点でまとめてみる.

ABCDルール (Lancet 2005;366:29-36, Lacet 2007;369:283-92)

2pt
1pt
0pt
Age

>=60yr

BP

sBP>140 and/or dBP>=90

Clinical features
片側の脱力
脱力(-), 言語障害あり
その他
Duration
>=60min
10-59min
<10min

年齢, 血圧, 臨床症状, 症状出現期間の4つの項目で評価し, ptと脳梗塞発症率は以下の通り,
Pt
2d
7d
0
0[0.0-9.4]
0[0.0-9.4]
1
1.0[0.0-3.8]
1.0[0.0-3.8]
2
1.4[0.7-2.8]
1.6[0.8-3.1]
3
1.3[0.8-2.4]
1.6[0.9-2.7]
4
3.4[2.5-4.6]
5.0[3.9-6.4]
5
6.1[4.7-7.8]
8.3[6.7-10.3]
6
7.7[6.0-9.7]
11.1[9.1-13.5]
4pt以上ならば1週間以内の脳梗塞リスクは5%であり, 入院適応とされている.

ABCD2ルール(Lancet 2007;369:283-92)
ABCDルールに糖尿病の有無(DM)の項目を足し, Dが2つでABCD2ルール.
Feature
Point
Age >60
1
BP(sBP>140, dBP>90)
1
Clinical; 片麻痺
      構音障害
2
1
Duration; 10-60min
    >60min
1
2
Diabetes
1
脳梗塞発症率は,
pt
2 Days
7 Days
90 Days
=<1
0[0.0-2.2]
0[0-2.2]
3.1%
2
1.4[0.6-3.0]
1.7[0.8-3.3]
3
1.3[0.7-2.4]
1.5[0.9-3.3]
4
3.8[2.8-5.1]
5.5[4.3-7.0]
9.8%
5
5.1[3.8-6.7]
7.2[5.7-9.0]
6
8.8[7.0-10.9]
12.3[10.2-14.7]
17.8%
7
6.3[3.3-11.3]
10.6[6.7-16.4]


ABCD2ルールと24時間発症率 (Neurology 2009;72:1941-7)
初回TIAの488名の解析. 発症24時間以内の脳梗塞発症率は5.1%.
ABCD2ルール スコアと来院24時間以内の脳梗塞発症率は,
ABCD2 rule
Risk (%)
>=4
5.0%[2.5-7.5]
>=5
7.3%[3.6-11.0]
>=6
9.1%[3.4-14.8]
7
16.7%[0-46.5]
またTIA後の脳梗塞発症は24時間以内が最も多く, 約1週間前後までリスクは高い.

シンガポールのValidationでは, ABCD2ルールのCutoffは3とすべきとの意見
(Am J Em Med 2010;28:44-8)
TIAの470名のRetrospective study. スコアと脳梗塞発症率は, 以下の通り.
Score
2D
7D
30D
90D
0
0
0
0
0
1
0
1.1%
1
1
2
2.4%
2.3%
2.1%
1.9%
3
9.8%
10.2%
11.3%
10.6%
4
22%
22.7%
22.7%
22.1%
5
28%
27.3%
28.9%
32.7%
6
28%
27.3%
25.8%
24%
7
9.8%
9.1%
8.2%
7.7%
Total
17.4%
18.7%
20.6%
22.1%


3pt以上よりリスクが上昇するという結果.

カルフォルニアのValidationでは, ABCD2ルールのCutoffはさらに下げるべきとの結果.
(Ann Emerg Med 2010;55:201-10)
TIA1667名のProspective study. ABCD2スコアと7日以内の脳梗塞発症率は,
ABCD2 score
7d脳梗塞(%)
7d disabling(%)
0
0
0
1
5.6[0-24.2]
0
2
14.7[2.1-24.3]
0
3
11.8[5.2-18.4]
0
4
18.7[14.0-23.5]
2.2[0-4.4]
5
24.6[19.8-29.3]
5.3[3.1-7.6]
6
25.9[20.6-31.3]
7.4[4.9-9.9]
7
29.2[17.8-40.6]
6.3[0.9-11.6]
これでは1ptでも5%のリスク. 2ptでは15%と低スコアでも高リスクとなってしまう. 後遺症を来すほどの脳梗塞は少ない.

カナダのValidationから得られたABCD2スコアと脳梗塞発症LRでは,
脳梗塞発症リスクを強く否定したいのならばCutoffは<2とすべき.
(CMAJ 2011;183:1137-45)

結局当初いわれていたABCDルール <4pt, ABCD2ルール <3-4ptをCutoffとしても脳梗塞発症リスクが低いとは言えないというのがValidationで判明してきた.
0-1ptならばまあ低リスクと言えるかもしれない.

ABCD3ルール, ABCD3-Iルール (Lancet Neurol 2010;9:1060-9)
ABCD2に "7日以内のTIAの既往" の項目が追加されたものをABCD3ルールと呼び,
さらに "同側頸動脈の≥50%狭窄" "急性期のMRI-DWIでHighを認める" の画像項目がつかされたものをABCD3-Iルールとした.

ABCD3
ABCD3-I
Age ≥60yr
1
1
BP≥140/90mmHg
1
1
臨床; 麻痺(-), 構音障害あり
 片側の麻痺あり
1 
2
1 
2
期間; 10-59min
 ≥60min
1 
2
1 
2
DM
1
1
1) 7d以内のTIA既往あり
2
2
2) 同側頸動脈の≥50%狭窄
NA
2
3) 急性期のMRI-DWIHigh
NA
2
Total
0-9
0-13


スコアとリスク分類, 7日以内の脳梗塞発症率は以下の通り(TIA患者3886名のCohort)
Risk
ABCD2
ABCD3
ABCD3-I
Low
0-3
0-3
0-3
Intermediate
4-5
4-5
4-7
High
6-7
6-9
8-13

Risk
ABCD2
ABCD3
ABCD3-I
Low
0.6%
0%
0%
Intermediate
2.5%
1%
0.8%
High
4.3%
3.4%
4.1%



脳梗塞発症予測に関しては, ABCD3ルールはABCD2ルールと同等.
つまり, TIAの既往の評価のみでは特に優位な点は認めない.
しかしながら画像評価を加えたABCD3-Iルールではより鋭敏にリスク評価が可能.

ちなみにTIA患者において, ABCD2スコアとMRIの異常所見には相関性は認めず, MRI所見は頸動脈ドップラーエコー異常所見のみ軽度の相関性を認めている(Stroke 2009;40:3202-5)
 >>つまりMRIや頸動脈エコー所見はTIA後の脳梗塞発症リスクの独立因子と言える可能性が高い.

臨床的なTIA患者において, 初期の画像でMRI-DWIでHighあり→ Infarctionを伴うTIAと規定したとき, Infarctionを伴うTIAと伴わないTIAの2群間でその後の脳梗塞発症リスクを評価(Neurology 2011;77:1222-1228)
MRI-DWIでの異常を伴わないTIA群ではABCD2スコアによらず, 脳梗塞発症リスクは低いという結果. 一方, MRI所見を伴うTIAではABCD2スコア≥4で脳梗塞発症リスクが高い.

以上より, TIAを考慮した際はABCD2,3ルールのみならず, やはり画像所見の評価は重要と言える. 画像所見があればABCDスコアが低値でも注意すべきである.
画像所見が無く, ABCDスコアが低リスクならば脳梗塞リスクも低いと言えるかもしれないが, この点に付いてはまだValidationが必要と考えられる.

2012年8月27日月曜日

脳波所見: Intermittent Regional Delta Activity(IRDA) 一過性のδ波

てんかん評価の脳波にDelta波が認められた. Delta波, 徐波って抑制されているんじゃないの?

Intermittent Regional Delta Activity (IRDA) (Epilepsy and Behavior 2011;20:254-256)
一過性のDelta波を認める脳波所見(1-4Hz, 50-100µV, 3-5秒以上).
認める部位によりFrontal(FIRDA), Temporal(TIRDA), Occipital(OIRDA)に分類される.

この中でてんかん発作に関連性が強いのはTIRDAとOIRDA.
FIRDAは様々な病態で認められる事が分かっている.
 例えば脳腫瘍, 皮質下病変, 脳浮腫, 代謝性脳症, 脳底型片頭痛, 皮質基底核変性症, PSP, CJD, DLBでの報告がある.
 てんかんに関連するFIRDAは2%のみ. 1.5-2.5HzのFIRDAでは高齢者の部分発作, 3Hz以上のFIRDAでは若年者の特発性全般性てんかんで認められる事が多い.
 FIRDAの機序は不明確で, 当初は皮質下の深部病変, 脳の中心に近い部位からの信号と考えられていたが, びまん性の灰白質, 皮質, 皮質下の過活動から生じることもある. また, 局所の白質や視床からの多源性のDelta波を生じるケースもある.

TIRDA; 1-4Hz, 50-100µV, 3秒以上持続する脳波波形
 主に側頭葉てんかんにおいて指摘される所見であり, 側頭葉てんかんの30-90%で認められる. その場合, 徐波の前にSpike様の波形を認める事がある.
 以前は側頭葉硬化に由来すると言われていたが, 他にも様々な組織所見で認めている. Mesial Temporal Lobe Epilepsy(M-TLE)以外にもLateral-TLEでも認めれ得る.
 薬剤抵抗性の場合も多く, 手術治療への反応性が良好なTLE例が多い.
(Neurology 1999;52:202-205)

 TIRDA所見+の側頭葉てんかん例において, 頭蓋内よりEEGを測定すると, Delta波, Theta波の混合と, Spike-slow waveが混在する所見が得られるという報告もあり, 頭蓋骨外から測定すると徐波だが, 実際は抑制ではなく, 興奮所見を見ている可能性がある (Epilepsia 2011;52:467-476)

129例の薬剤抵抗性の局所てんかん患者で脳波を評価 (Clinical Neurophysiology 2003;114:70-78)
 64/129がTLE (M-TLE 28, L-TLE 9, ML-TLE 27例), extraTLE 40例, TLEを含む多源性 25例.
 TIRDAの頻度は, 以下の通り
M-TLE
24/28(85.7%)
L-TLE
0
ML-TLE
18/27(66.7%)
extra-TLE
0
TLE+
10/25(40%)



 TIRDAはMesial-TLEに高頻度で認められ, Lateral-TLEでは認められない. また, TLE以外の局所てんかんでも認められなかったという結論.
 また, TLE 50例で側頭葉切除を試行した結果, 側頭葉硬化は35例で認められた. TIRDAは30/35(85.7%)で認められ, 他の病理所見よりも頻度が高かった(萎縮では14.3%, 腫瘍では37.5%).

TIRDAは単一波形の方がより側頭葉てんかんに特異的 (Neurology 1999;52:202-205)
 47例のextraTLE(40例が前頭葉, 7例が頭頂, 後頭葉), 43例のTLE患者で脳波をチェック.

片側, TIRDA
片側 monorhythmic
片側 polymorphic
両側 polymorphic
TLE
46.5%
27.9%
18.6%
7.0%
eTLE
23.4%
4.3%
19.1%
2.1%


 この結果ではextraTLEでもTIRDAは認め得る. 特に多型性のTIRDAはTLE, extraTLE双方で認めているため, 特異性は低い. 単型性のTIRDAはTLEの27.9%, extraTLEの4.3%で認められており, よりTLEに特異的と言える.

また, 持続時間は様々. 脳波測定期間の>50%, 25-50%, <25%で認めるのが1/3ずつ程度.
(Epilepsia 2011;52:467-476)

OIRDA; 小児の欠神発作で報告された波形(Epilepsy and Behavior 2011;20:254-256)
 小児例で多く, 特に後頭葉の後方部位では小児例が多く, 後頭葉の前方部位では成人例が多く報告されている.
 TIRDA同様てんかん発作との関連が強く, 全般発作, 欠神発作, 局所性てんかんでOIRDAが認められている.

OIRDAはPhi rhythmとの鑑別が重要
 Phi rhythmは閉眼に一致した1-3秒の左右対称性のDelta波で, 2-4Hz, 100-250µVのDelta波である事が多い. Spike様の波を認めてもてんかんとは関連性は無い.