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2012年7月26日木曜日

COPDに対するアジスロマイシン

N Engl J Med 2011;365:689-98

COPD患者1142名のRCT.
 Azithromycin 250mg/d vs Placeboに割り付け, 急性増悪リスクを比較.
除外Criteriaは, 4週間以内の急性増悪既往, 安静時HR>100, QTc>450msec, 難聴, QT延長を来す他の薬剤の使用がある場合は除外されている.
母集団はGOLD III-IVが74%, HOT導入患者が60%.

アウトカム;

Outcome
Azithro
Placebo

急性増悪までの期間
266d[227-313]
174d[143-215]
P<0.001
急性増悪頻度
1.48/pt-yr
1.83/pt-yr
RR0.83[0.72-0.95]
全入院 /pt-yr
0.74[0.60-0.89]
0.95[0.76-1.18]
HR0.94[0.76-1.15]
COPD関連入院 /pt-yr
0.34[0.26-0.43]
0.49[0.31-0.67]
HR0.82[0.64-1.07]
ER受診 /pt-yr
0.43[0.34-0.53]
0.48[0.39-0.57]
HR0.81[0.63-1.04]
挿管 /pt-yr
0.02[0.01-0.04]
0.04[0.01-0.06]
HR0.79[0.04-1.75]


急性増悪予防目的のAzithromycinはNNT 2.86と良好.

このようなStudyがあり, 2012年7月26日出版のNEJMでReviewが掲載
N Engl J Med 2012;367:340-7
特に目新しいStudyはないが, 上記StudyをふまえてExpert opinionを掲載している.
それが結構興味深い内容なので紹介する.

どのような患者群でAzithromycinが推奨されるか?

1年間で2回以上の急性増悪発作あり
QT延長を来す薬剤の併用無し
COPDの薬剤を正しく使用している
聴覚検査にて難聴が無い
安静時心拍数<100bpm
マクロライドに対するアレルギーが無い
cQT <450msec
喀痰培養でMycobacteriaが陰性
AST,ALT <3ULN
心血管イベントリスクが高リスク群ではない

前述のStudyの除外Criteriaは基本的にAzithromycin投与からは除外されるべきとしている.
また, それ以外にも肝酵素が正常上限の3倍以上の上昇を示す症例,
Mycobacteria(+), 心血管イベントの高リスク群は除外することを推奨.
また, CYP3A4を阻害する様な薬剤との併用も避けるべきとしている.

Azithromycinの投与量は?
Studyは250mg/dであるが, 連日投与は必要ないとの意見。
Evidenceは無いが, 250mgを月, 水, 金投与で良いとしている.

また, 3ヶ月毎にフォローし, 肝酵素, 難聴の病歴, 耳鳴り, めまい, 下痢の有無(CDAD), 心電図のチェックを行うことを推奨.
Azithromycin 250mg/d投与のStudyでは, 難聴発症率が25% vs 20%(Placebo)であり, Azithromycinの長期投与(1Y)にて5%は難聴を来す可能性があると考えられている.


いままでCOPDの末期、複数回急性増悪を繰り返す人で導入してきたけど,連日である必要がないかもしれないこと、フォロー項目がクリアカットとなってやり易い。

2012年7月25日水曜日

ICU患者における血糖コントロール

この話は当然NICE-SUGAR studyを抜きにしては語れない.
(NEJM 2009;360:1283-97)
ICUに3日間以上滞在する患者6104名のRCT.
 Intensive(目標血糖 81-108mg/dL) vs Conventional control(144-180mg/dL)群に割り付け, 死亡リスクを評価したstudy.
Outcome
Intensive
Conventional
OR
28D死亡率
22.3%
20.8%
1.09[0.96-1.23]
90D死亡率
27.5%
24.9%
1.14[1.02-1.28]
主な死亡原因



 Cardiovascular-distributive shock
20.3%
18.6%

 その他 心血管系イベント
21.4%
17.2%

 神経系イベント
21.7%
25.8%

 呼吸器系イベント
23.0%
23.6%

 その他
13.6%
14.8%

重度の低血糖イベント
6.8%
0.5%
14.7[9.0-25.9]
表のように90日死亡率はIntensive control群の方が高いとの結果.
ICU滞在期間, 挿管管理期間, 透析移行率は有意差無し.
Sub-analysisでは, 外傷、ステロイド使用例でIntensive controlの方がアウトカム良好に傾くが, 内科、外科ICU, DMの有無, APACHE II別, 敗血症群すべてConventional群の方が良好

このNICE-SUGARを含めた26 trialsのMeta-analysis(CMAJ 2009;180:821-7)では,
血糖目標 <110mg/dL(Intensive) vs <150mg/dLで比較し, 死亡リスクは有意差無しとの結果.
低血糖リスクは有意にIntensive群で大きい.
Outcome
IIT
Control
RR
死亡Risk
24.7%
24.7%
0.93[0.83-1.04]
低血糖Risk
10.7%
1.6%
5.99[4.47-8.03]

Jadad score 3以上のまあ比較的デザインが良いといえる7 RCTsのMeta-analysisでは,
(Chest 2012;137:544-51)
Outcome
OR
28d死亡Risk
0.95[0.87-1.05]
菌血症Risk
1.04[0.93-1.17]
腎透析療法導入Risk
1.01[0.89-1.13]
低血糖Risk
7.7[6.0-9.9]
血糖80-110mg/dL vs Leuven control群(平均150mg/dL)の比較において, 28日死亡率は有意差無し. 感染症も有意差は認めなかった.
ただし, このStudyにおいて, 栄養摂取ルート別にみてみると,
TPNを使用しているStudyでは血糖80-110を目標とした方が予後が良い傾向があり,
経腸栄養を使用しているStudyでは血糖コントロールの目標をやや緩めた方が予後が良い傾向がありそう.

また, ICUセッティング別に解析したMeta-analysisをみてみると
(JAMA 2008;300:933-44)
 Tight control (Very tight; =<110, Moderate <150) vs Usual Hospital Care(180-200mg/dL)での比較
ICU患者において, 全死亡Riskは有意差無し(RR 0.93[0.85-1.03])
  Very tight, Moderateでも有意差認めず
  Surgical, Medical, Medical-Surgical ICUにおいても有意差認めず
菌血症, 敗血症Risk RR 0.76[0.59-0.97]
 Very tight RR 0.80[0.57-1.11] Moderate RR 0.64[0.41-1.00]
 (ICUセッティング別)
 Surgical ICU RR 0.54[0.38-0.76] Medical ICU RR 1.16[0.78-1.73]
 Medical-Surgical ICU RR 0.86[0.71-1.04]
透析導入Risk RR 0.96[0.76-1.20]
 Very tight, Moderateでも有意差認めない
 ICU Setting別でも有意差認めず
低血糖(<40mg/dL) RR 5.13[4.09-6.43]
 Very tight, ModerateでもRiskは上昇する
 Medical ICUのみ有意差認めないが, 他ICU Settingでは低血糖Risk上昇

死亡率は変わらないものの, 外科ICUではしっかりと血糖を下げた方が感染症リスクが低下する可能性がある.

これらの結果を踏まえて, 2011年のACP clinical practice guideline 2011では,
1; Surgical ICUを除くICUではIntensive insulin治療は推奨されない
(Grade; strong recommendation, moderate-quality evidence)

2; Surgical ICUを除くICUでは血中Gluを正常化させる必要は無し
(Grade; strong recommendation, high-quality evidence)
3; Surgical ICUを除くICUでは血中Gluの目標値140-200mg/dLとする
(Grade; weak recommendation, moderate-quality evidence)
というような推奨がされている. (Ann Intern Med 2011;154:260-7)

更に言えばTPN中ならばガッツリとコントロールした方が良いし,
それが嫌ならばなるべく速く経腸栄養にもっていって、緩徐な血糖コントロールに持ち込むのがもっとも予後は良さそうだ。

また, ICU管理における低血糖エピソードは死亡リスクを有意に上昇させるというNICE-SUGARの解析も発表された 詳しくはコチラ

ACE阻害薬による血管浮腫の頻度は0.3%

Am J Cardiol 2012;110:383-391

ACE阻害薬、ARBs、DRI(Direct renin inhibitor)を使用したRCTのMeta-analysis
それぞれの薬剤による血管浮腫の頻度は,

薬剤
N
血管浮腫発症率
ACE阻害薬
26 trials, N=74857
0.30%[0.28-0.32]
ARBs
19 trials, N=35479
0.11%[0.09-0.13]
DRI
2 trials, N=5141
0.13%[0.08-0.19]
Placebo

0.07%[0.05-0.09]


ACE阻害薬の血管浮腫のORは,
 OR 2.79[1.63-4.79](vs Placebo), OR 2.24[1.50-3.34](vs ARBs)
ARBsやDRIはPlaceboと比較して有意差は認めなかった.

他の薬剤での頻度は, こんな感じ(下)
 Sub-analysisでは,
心不全患者を対象としたACE阻害薬使用で最もリスクが高かった.

2012年7月23日月曜日

自己免疫性溶血性貧血(AIHA); 治療

AIHAの治療 (Expert Rev. Hematol 2011;4:607-618)


cAIHAの治療; Transient cAIHAの場合
 Viral感染, マイコプラズマに伴う一過性のcAIHAでは重度の貧血を来すことがあり, その場合は輸血にて対応する.
 輸血時は慎重に観察しながら行い, Evidenceはないが37度に暖めて使用することが推奨される.
 重度の場合はステロイド投与を考慮.


Chronic CADの場合
 対症療法がメインとなる.
 寒冷曝露を避けることが大事だが, それだけで溶血は予防困難
 感染症の急性反応により補体が活性化され, 溶血が増強することがあり, 感染予防は重要.
 インフルエンザワクチン, 肺炎球菌ワクチンが推奨される.
 急性の溶血の場合は状態に応じて暖めたRBC輸血を考慮する.
 ステロイドやIFN-α, 免疫抑制剤は推奨されない.
 また, 溶血は主に肝臓でおこるため, 脾摘も推奨されない.
 血漿交換は急性溶血時に一過性に有効であり, 重症例や手術前に考慮されることがある.
 近年Rituximab, Fludarabineの併用療法が報告されており, 50-76%で反応を示す.
 しかしながら再発率も高く, 薬剤の副作用も大きいため, 適応に際しては検討が必要.
 Chronic cAIHAには補体が関連しているため, C5モノクローナル抗体(eculizumab)の効果が期待されている(eculizumabはPNHに使用される薬剤)

wAIHAの1st-line treatment ⇒ ステロイド
 PSL 1-2mg/kgで開始し, 3-4wk継続.
 反応があればその後徐々にTaperingしてゆく.
 ステロイドの投与期間は決まっていないが, 完全寛解後3-12moは投与維持することが推奨.
 重症例では初回にステロイドパルス療法が推奨される.
 IVIgは一部で有用であるが, 費用がかかるため, ステロイドで反応が乏しい症例, 輸血依存となっている症例で考慮するべき.
 Epo製剤は網状赤血球<150x109/Lでは投与を考慮する

wAIHAの2nd-line treatment
 Danazol; wAIHAの寛解維持にPSL >15mg/d必要とするCaseでDanazol 400-800mg/dはSteroid-sparing agentとして有効
 脾摘; 脾摘による寛解維持率は70%と良好だが, 感染のリスク, 手術による合併症を考慮し, Danazolが優先.
 Rituximab; 初期反応率は93-100%と良好. Steroid-sparing agentとして有用な薬剤と言える. 副作用が多いため, これもDanazolが優先される.
 他の免疫抑制剤; Cyclophosphamide, MMFなど. 3rd-line的扱い.

Secondary wAIHAの治療
 SLEに伴うwAIHA; SLEの5-10%にAIHAを伴う.
 治療はステロイドが中心となるが, 維持量はPSL ≥10mg/dでAIHAが抑制される最小量が推奨. >15mg/dとなる例では他の免疫抑制剤の併用が推奨.
 CLLによるwAIHA; B cellによるリンパ増殖性疾患が多い. CLLの内2.3-4.7%がAIHAを発症. これも初期治療はPSL 1-1.5mg/dとCLLの治療を併用.

状況に応じた推奨治療(Wien Klin Wochenschr 2008;120:136-151)

自己免疫性溶血性貧血 (AIHA); 診断

AIHA; Autoimmune Hemolytic Anemia
RBC自体に対する自己抗体による溶血性貧血.
 小児と成人で好発し, 1-3/100 000pt-yの発症率
 小児例は5歳以下, 成人例では65歳以上で多い.
 小児例では男児の方がやや多いが, 成人例では男女比 1:2で女性に多い.
 高齢者ではリンパ増殖性疾患, CLLの頻度が上昇するため, AIHAも多くなると考えられている. 


AIHAの診断
他の溶血性貧血の除外; 末梢血の観察が重要
 遺伝性球状赤血球症, 楕円赤血球症, サラセミア等.
 気をつけるべき点は, 少数の球状赤血球ならば AIHAでも30-40%で認めうる点.


DAT: Direct antiglobulin test(直接Coombs)は簡便な検査で, AIHAに対する感度95%, 特異度~80%と有用.
DATが陰性のAIHAは以下のパターンのみ.
 抗体が少数(<150 抗体/RBC)
 自己抗体のAffinityが低すぎる場合
 自己抗体がIgA, IgMで, DATをIgG, C3抗体のみ評価した場合


AIHAの診断後は分類
AIHAは4つのタイプに分類される
 warm AIHA(wAIHA), 
 cold AIHA(cAIHA, chronic cold agglutinin disease;CAD), 
 mixed-type AIHA, 
 exceptional Paroxysmal cold hemoglobinuria(PCH)


wAIHAは全AIHAの70-80%を占める.
 DATはIgG ± C3で, 35-40度で活性化し, 血管外溶血を来す(主に脾臓)


cAIHA(cold agglutinin)は15-20%を占めるAIHA. DATはIgG neg, C3 pos. 寒冷凝集素が陽性となる(>1/64)


mixed-AIHAは10%を占める. 温式, 冷式抗体双方を持つ. 抗体はIgMだが, DATでは早期に消失するため, 検出されない. 重度の溶血を来たし, 主に肝臓での溶血を来す.


PCHは非常に稀なAIHAで, 小児で発症する. 2-10度で反応するIgG hemolysinによる溶血で, Donath-Landsteiner testでのみ検出される.



AIHA type
疫学
溶血タイプ
二次性の
割合
自己抗体
体温
DAT
パターン
Eluate
自己抗体の特異性
wAIHA
AIHA70-80%
成人>小児
亜急性の
血管外溶血が主
(
血管内溶血もある)
~50%
IgG>>IgA, M
37
IgG±C3d
IgG
Broad specificity towards antigens fo the Rhesus system
Cold agglutinin syndrome
成人例の20-30%
>50y
で多く
血管外溶血
90%Monoclonal
IgM
κ gammopathy± 
B-cell
リンパ増殖性疾患
IgM>>>IgA,G
Cold agglutinin titer >1/500
4
C3d
Neg
I antigen>i>>Pr
Cold transient
AIHA
小児, 若年成人
血管内溶血
感染症
(Mycoplasma, EBV)
Polyclonal IgM
Cold agglutinin titer
1/64
4
C3d
Neg
I>i antigens
PCH
小児. 非常に稀
成人は例外的
急性の血管内溶血
感染症
(Mycoplasma, Virus)
IgG(Donath-Landsteiner hemolysin)
>30
C3d
Neg
P+c antigens
Mixed-type
AIHA
成人発症
主に血管外溶血
主にB cell
リンパ腫
IgG, IgM
± AF ~1/500
4-37
IgG±C3d
IgG
IgG
Polyreactivity
(Expert Rev. Hematol 2011;4:607-618)


Primary or Secondary AIHA
wAIHAの50%が二次性であり, 背景疾患の評価は重要. 初期で見つからなくても, nHLの初期症状の可能性があり, フォローも大事となる.
高齢者に多いCADでは90%がmonoclonal IgMκに関連したもので, 75%でB cellの増殖性疾患を伴っている.


二次性wAIHAの原因疾患(Expert Rev. Hematol 2011;4:607-618)

血液疾患
固形腫瘍
CLL, ALL
Large granular lymphocytic leukemia
B cell lymphoma
Angioimmunoblastic T cell lymphoma
Hodgkin lymphoma
Castleman disease
Myelodysplasia
Myelofibrosis
胸腺腫
Ovarian dermoid cyst, Carcinoma

自己免疫性, 炎症性
感染症
抗リン脂質抗体症候群
関節リウマチ, 潰瘍性大腸炎
Pernicious anemia,
重症筋無力症
自己免疫性肝炎, 巨細胞性肝炎
甲状腺炎, サルコイドーシス
好酸球性筋炎, SLE
EBV, HCV
結核, Brucellosis, 梅毒



先天性免疫疾患
その他
Common variable immunodeficiency
Hyper IgM syndrome
ALPS
IPEX syndrome
APECED syndrome
妊娠, 薬剤性
移植後(骨髄, 臓器)
Rosai-Dorfman disease

各疾患とAIHAの合併率(Wien Klin Wochenschr 2008;120:136-51)
薬剤曝露後のwAIHA(Wien Klin Wochenschr 2008;120:136-51)
原因薬剤はPurine analog(Fludarabine, Cladribine), Chlorambucil, Pentostatin, Rituximabでの報告がある.
CLLに対する薬物治療での発症報告が多い.
wAIHA診断時にチェックすべき検査(Expert Rev. Hematol 2011;4:607-618)
 抗核抗体; 陽性ならばDNA抗体もチェック
 抗カルジオリピン抗体, ループスアンチコアグラント
 血清タンパク電気泳動, Immunoelectrophoresis
 末梢血リンパ球のImmunophenotyping 
SLEや抗リン脂質抗体症候群が否定的ならば
 胸部, 腹部, 骨盤のCT検査.
 骨髄穿刺, 生検(Hypogammaglobulinemia, monoclonal gammopathy ± CTにてリンパ節腫大がある場合に考慮)