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2012年6月28日木曜日

心内膜炎における手術治療適応


心内膜炎に対する手術治療はACC-AHAガイドラインより以下が提唱されている.


このうち, 緊急手術の適応ではない, 適応するか迷う様な症例を対象としたRCT.
N Engl J Med 2012;366:2466-73.

Native-valveの左側IEで, 重度のARもしくはMRを伴う症例で, >10mmの疣贅を認める76例のRCT.

早期手術群(割り付けから48時間以内に手術)
通常の治療群(抗生剤を基本とし, 改善が乏しい場合, 手術適応項目を満たした場合に手術)
 に割り付け, 塞栓症発症率, 死亡率を比較.

除外項目は
ACC-AHA Guidelineで明らかに緊急手術の適応となるもの
 >> 中等度〜重度の心不全合併, 心ブロック合併, 膿瘍合併, 穿通性病変, 真菌性心内膜炎

手術治療にリスクが伴うもの,
 >> 80歳以上, 診断時にMajor embolic strokeを認める場合, 重大な基礎疾患あり(悪性腫瘍等)



Outcome; 死亡率は両者変わらないが, 塞栓症リスクは手術治療群で有意に低下する.

塞栓症は抗生剤治療群で11例(28%) @6wk. 手術群では0例.
6wk-6moの期間では両群で 塞栓症の発症は無し.

重症敗血症に対するHES vs リンゲル

参考; ICU患者におけるHES vs 生理食塩水

N Engl J Med 2012.DOI: 10.1056/NEJMoa1204242 出版前の発表より

6S trial; Severe Sepsis患者798名を対象とした, Multicenter, triple-blinded trial.

6% Hydroxyethyl Starch(HES)を酢酸リンゲルに混合した外液(Tetraspan)
 vs. 酢酸リンゲルによるFluid resuscitation群に割り付け, 90日間施行.

両群の輸液は33ml/kg/dを上限として行い, それ以上の補液が必要となる場合は両群とも酢酸リンゲルを用いた.

経過中に重度の出血, アレルギー反応, 透析導入となった場合は, 両者補液は終了とし, NSもしくは乳酸リンゲルを用いて治療を継続.

アウトカムは28日, 90日の死亡率, 腎透析移行率.

母集団のデータ

両群の補液使用量の比較
 両群とも補液の総量は特に有意差が無い.
 HESにVolume Expanderとしての能力は低い?

アウトカム


HES使用群で有意に透析導入率, 死亡率が高いという結果.
そもそも初日に8000mlの輸液を必要としており、その内、HESは1500ml程度のみ。
輸液量のうちのHESが占める割合はそこまで多いものではない。

にもかかわらず, 腎予後が悪いのは, HES自体が腎障害に寄与している可能性がある。

実はHESに含まれる高分子は体内では異物と見なされ, 代謝されず,
長期にわたり組織に沈着することが分かっている。主に腎, 肝, 骨髄.
 >> 晩期の死亡率の上昇や腎予後不良はこの点が関与している可能性がある.

この結果は NEJM 2008;358:125-139 Sepnet studyと同様の結論であり,
ほぼ勝負あったか、という感じ。

脳動脈瘤の破裂率 @日本


N Engl J Med 2012;366:2474-82.

UCAS Japan Study; 日本国内の施設において, 2001-2004年に新規診断された脳動脈瘤患者の前向きコホート.

 患者は20歳以上で, 3mm以上の嚢状動脈瘤を認めた5720名を対象. 動脈瘤は計6697箇所.
 91%が偶発的に発見. 患者の大半が無症候性であった.
 女性例が2/3, 平均年齢62.5±10.3歳.
 瘤の平均サイズは5.7±3.6mm, 高齢者程サイズは大きい傾向.

患者母集団のデータ


Outcome; 11660動脈瘤-yrのフォローにて,
 年間動脈瘤破裂率は0.95%[0.79-1.15]


動脈瘤計が大きい程,
A-com, P-comの動脈瘤程リスクは高くなる.




3-4mm
Reference
P-com vs *
HR 1.90[1.12-3.21]
5-6mm
HR 1.13[0.58-2.22]
A-com vs *
HR 2.02[1.13-3.58]
7-9mm
HR 3.35[1.87-6.00]

*; A,P-com除く部位
10-24mm
HR 9.09[5.25-15.74]
形がいびつ
HR 1.63[1.08-2.48]
≥25mm
HR 76.26[32.76-179.54]







動脈瘤の部位と計による年間破裂率の予測


2012年6月27日水曜日

ワーファリン使用患者へのt-PA

JAMA. 2012;307(24):2600-2608より

AHA/ASAガイドラインではワーファリン内服中でもINR≤1.7であればt-PAの使用は可能とされているが, その根拠は無かった.

今回, GWTG-Stroke Registryにて, 脳梗塞にてt-PAを使用した23437名を解析。

その内7.7%(1802名)がワーファリンを使用中であり, INR 1.20[1.07-1.40]であった。
ワーファリン使用中とは, t-PA投与開始時から7日以内の使用歴があることを意味。

アウトカムは36時間以内の症候性脳出血, 致死的出血合併症とし,
ワーファリン使用群 vs 非使用群で比較した。

ちなみに, ワーファリン使用患者のうち, INR 1.5-1.7の上限ギリギリは269名(15%)。

Outcome;

症候性の脳出血, 致死的の出血合併症, t-PAによる合併症, 死亡率は有意差無し.
 ワーファリン使用群の方が高齢, 基礎疾患も多く, 非調節ORではリスク増大するように見えるが, 調節ORでは特に有意差無し.


年齢<75yr, ≥75yr別の解析, INR値1.5-1.7群の解析でも有意差無し.


ワーファリン使用患者群のINR値と症候性脳出血のリスク.
INR 1.7程度まではリスク同等と言えるが、それ以上では上昇する可能性がある。

ただし, 日本人ではそもそも海外と比較してINRのターゲットが低く設定されており,
これを適応すべきかは不明。少なくともその点の評価は国内で必要でしょう。

Neurology 2012;79:31-38より
脳梗塞でt-PA使用された548例のProspective cohort
Warfarin治療中の患者は15例. INRは1.21±0.32
症候性の頭蓋内出血(<72hr)は6.0%, Systemic bleedingは2.6%で認め, ワーファリン内服患者は有意に高リスクとなる.

他のStudyとのMetaでは, 全体的には出血リスク増大に傾くが, Study毎の一致性はやや低め

2012年6月26日火曜日

脳梗塞の二次予防としてのスタチン

脳梗塞の2次予防としてのスタチンに関しては,
SPARCL trialが有名(NEJM 2006;355:549-59)

1-6ヶ月以内に脳梗塞、TIAを発症した4731名のDouble-blind RCTで,
LDL 100-190mg/dL, 心疾患リスクが無い患者群で評価したもの.

Atrovastatin 80mg/d vs Placeboに割り付け, Strokeの再発率を比較.
平均フォロー期間は4.9年.

Outcomeは, 死亡率は有意差ないものの, Stroke再発率は低下するという結果であった

Outcome
Atrovastatin
Placebo
HR
Stroke全体
11.2%
13.1%
0.84[0.71-0.99]
非致死的 Stroke
10.4%
11.8%
0.87[0.73-1.03]
致死的Stroke
1.0%
1.7%
0.57[0.35-0.95]
TIA
6.5%
8.8%
0.74[0.60-0.91]
全死亡
9.1%
8.9%
1.00[0.82-1.21]




このSPARCL trialを年齢別に解析したStudyが Neurology 2009;72:688-94に発表され、
その結果, Stroke予防効果が認められたのは65歳未満の群のみとの結論であった。


Outcome
<65yr
>=65yr

Statin
Placebo
HR
NNT
Statin
Placebo
HR
NNT
Stroke
7.9%
10.5%
0.74[0.57-0.96]
38
14.7%
16.2%
0.90[073-1.11]
Stroke or TIA
12.5%
17.0%
0.73[0.59-0.90]
22
19.4%
23.8%
0.79[0.66-0.95]
23
冠動脈イベント
2.3%
3.6%
0.62[0.39-0.99]
77
4.6%
6.8%
0.68[0.48-0.97]
45
CHD
3.8%
6.8%
0.55[0.38-0.78]
33
6.7%
10.8%
0.61[0.45-0.81]
24
全死亡
5.2%
4.2%
1.21[0.84-1.75]
13.2%
14.4%
0.94[0.75-1.18]


他にもLancet Neurol 2009;8:453-63にてStrokeの一次予防、二次予防に対するスタチンのMeta-analysisも発表され, その結果はスタチンは一次予防、二次予防双方に効果的との結論。

Outcome

N
Active
Control
RR
Stroke
一次予防
23
0.4-4.7%
0.5-4.8%
0.81[0.75-0.87]

二次予防
4
9.5-13.5%
10.4-20.0%
0.88[0.78-0.99]
致死的Stroke
一次予防
13
0.1-1.0%
0.1-1.1%
0.90[0.76-1.05]

二次予防
1
1.0%
1.7%
0.87[0.73-1.03]
脳出血
一次予防
9
0.0-0.3%
0.1-0.5%
0.81[0.60-1.08]

二次予防
2
1.3-2.3%
0.7-1.4%
1.03[0.75-1.41]

また, LDL-Cholの減少率が高い程、Stroke発症率が低下するとのMetaもあり
(Lancet 2011;377:1681-92)


そこで今回発表されたスタチンによる心血管系イベントに対する2次予防効果のMeta
(Arch Intern Med 2012;172:909-919)
このStudyは男女別に解析している.


その結果, 冠動脈疾患に対する二次予防効果はスタチンは男女共に認められているが,
Strokeに対しては男性のみ効果を認めており, 女性では有意差無し.
死亡リスクに関しても男性のみ有意差ありという結果.

以上をまとめると,
脳血管疾患に対するスタチンの二次予防効果は,
男性例で, <65歳の若年性の脳梗塞のみで明らかに効果は認められるということか。
女性例や、高齢者例での効果は証明不十分という認識にすべきか。

いままでStroke後は全例スタチンだろう、と言っていたマネージメントは見直すべきなのかもしれない。by高岸。


市中肺炎の入院期間を短縮する3つのステップ


Arch Intern Med 2012;172:922-928

市中肺炎患者において, 早期リハビリ開始, 早期経口内服への切り替え, 早期退院の3つのCriteria(3-step)を作成しマネージメントする群と, 通常のケアを比較したRCT.

3-stepとは, 
早期リハビリ; 入院24時間以内のベッド上, 外でのリハビリ.
早期経口切り替え, 退院Criteriaは以下参照
経口内服切り替えCriteria
退院Criteria
経口摂取可能
Abxを経口に切り替え済み
臨床的改善
意識状態が入院前と同じ
Vital Stable(BT≤37.8, RR≤24, sBP≥908時間以上)
酸素化改善(PaO2≥60, Sat≥90%)
COPD, HFなど増悪した基礎疾患無し
慢性呼吸不全では元の状態に戻っている
Septic metastases無し


マネージメントの混在を避けるため, 医師を2群にわけ, 3-step治療と通常治療に当たらせた.

患者母集団は, ≥18yrの市中肺炎 401名.
 Pneumonia Severity IndexにてIV-V もしくは,I-IIIで以下の1つ以上を満たす場合
 酸素化低下(PaO2<60, Sat≤90%), 
 Vital sign異常(BT>37.8, HR>100, sBP<90)
 48hrの抗生剤投与に反応無し.
 不安定な基礎疾患にて入院が必要と判断された患者.

除外項目は,
 ICU管理, 瀕死, ショック状態, 肺炎随伴性胸水(+), 妊娠, 誤嚥性肺炎, 社会的な要因(ホームレス, 薬中, 意思疎通困難)

Baselineの母集団データ

アウトカム; 入院期間, 合併症

3-step治療群の方が入院期間は短縮し,抗生剤IV期間も短縮. それに伴い薬剤による合併症も減少する.
経口に切り替えることで膿胸や合併症が増加することも無い.

早期リハビリは当たり前として,
IVから経口に切り替えるタイミングなんかは非常に参考となる面白いStudy.
完全に解熱しなくても37度台で、呼吸数(これが大事)が24回未満ならば経口へ切り替えしても問題は無い。

これであまり呼吸数を意識しない先生方も呼吸数に注目してくれるでしょうか?
期待したいところ by高岸