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2016年1月21日木曜日

健常人ボランティアにおける視神経鞘のサイズ(エコー)

以前, 頭蓋内圧亢進を示唆する所見として視神経鞘の拡大があるとブログに書いた.
詳しくはこちらを参照: Optic nerve sheath diameterと頭蓋内圧亢進

その後, 蘇生後脳症の予後を判定する指標としてのONSDや
視神経炎や視神経虚血を評価するためのONSDなどいろいろな報告がでている.

で、ところで健常人ではONSDのサイズはどの程度なの? という疑問

Journal of Critical Care 31 (2016) 168–171 
健常人ボランティア 120例において, Optic nerve sheath diameter(ONSD)を評価.
 年齢は18-65歳, 男性55例, 女性65例.
 ONSDは全体で3.68mm[2.85-4.40]と5mmを超えない結果.
 評価方法(エコーの向き)でも特に大きな差はない.

年齢や性別、体格で差があるかどうかというと
ONSDで差がでるのは性別のみ. 女性のほうが細い
それでも男性で5mmを超えることはないので, やはり5mmを超えたらおかしい!と思っておけば良さそう.

2016年1月20日水曜日

運動誘発性気管攣縮

運動誘発性気管攣縮: Exercise induced bronchoconstriction(EIB)

Review (BMJ 2016;352:h6951)のまとめ
EIB: 運動により一過性に下気道が狭窄する病態
・運動開始後 15分以内に出現し, 60分以内に改善することが多い
・改善後は40-50%は再度運動してもEIBが生じない
・EIBは運動開始時のみならず, 運動中に生じることもある
・EIBは喘息との合併が多いが, 喘息がない患者でも生じる

EIBの誘発因子
・運動により呼吸数が増加(85%以上)すると, 気道粘膜の乾燥が生じる
 気道粘膜が乾燥し, 一過性に気道浸透圧が上昇, その結果肥満細胞が活性化され, ヒスタミンやセリンプロテアーゼ, プロスタグランジン, ロイコトリエンなどMediatorが増加.
・その結果気管攣縮が生じる
・また呼吸回数が増加すると, アレルギー物質との暴露も増加

EIBは小児〜成人, アマチュア〜プロまで様々な人で生じ得る.
・アスリートの10-50%で認めるという報告もある 
 交通量の多い場所(アレルゲンが多い)を走ったり,
 化石燃料を使用している環境(スケートリンクの暖房),
 ウインタースポーツの環境(乾燥した空気)
 スイマー(塩素の吸引)などがリスクとなる.

EIBの症状
・EIBでは運動時, 運動後の喘鳴, 咳嗽, 胸部の締め付けが認められる.
 しかしながら特異的な症状は乏しく, それだけでは診断に至らない

EIBの診断
診断には誘発試験が有用.
誘発方法には直接法と間接法がある.
・直接法では気道粘膜を刺激する薬剤をネブライザーで投与する
・間接法では気道粘膜を乾燥させるような刺激を与える
・刺激前, 刺激後5分, 10分, 15分, 20分でスパイロメトリーを行いFEV1が10-15%以上低下が2回認められれば陽性と判断.

・誘発試験(直接法)では重度の気管攣縮のリスクとなるため,緊急時の対応, 酸素投与や気管支拡張薬の投与が迅速にできる施設で行う.

誘発試験で偽陰性となるリスク因子

EIBに類似した症状を呈する疾患
EILO (Exercise induced laryngeal obstruction)
・運動により喉頭閉塞をきたす病態.
・吸気時のStridorを生じ, それがWheezeと間違われることが多い.
・EILOは喘息やEIBと誤診されることが多く, 喘息の疑いで精査された運動選手の35%がEILO.
・EILOのStridorは運動と共に出現し, 運動を止めると速やかに消失
 一方でEIOのWheezeは運動を止めた後も残存する.
・EILOでは, 喘息の検査や誘発試験を行っても陰性となる

EIBの治療
非薬物治療
・ウォームアップをしたり, 高強度の運動と休憩を繰り返すことでFEV1の低下を緩和可能.
・また汚染が強い環境や乾燥した環境での運動を避けることも大事

薬物治療
・短期作用型β刺激薬吸入: 運動前のSABA吸入は有意にEIBを改善させるが, 連日の使用で効果は低下する
 週2-4回程度に抑えるか, レスキューとして使用すべき
・吸入ステロイド: 喘息とEIBが合併している患者では, ICSの使用が有効.
・ロイコトリエン受容体拮抗薬: レスキューとしての効果はないが運動の2時間前に使用することでEIBの予防効果がある
 予防効果は24時間続く

EIBの診断〜治療アルゴリズム

2016年1月19日火曜日

Cryptogenic strokeにおけるAf検出リスク因子

CRYSTAL AF studyにおいて,
cryptogenic strokeで埋め込み型Loopレコーダー群に割り付けられた221例を解析
(Neurology® 2016;86:261–269)

CRYSTAL AFについてはこちらを参照 心原性脳梗塞の評価

・Cryptogenic strokeにおける潜在性Afのリスク因子を評価した
・Afは12ヶ月で29例, 36ヶ月で42例で検出.

多変量解析によるリスク因子の評価

・有意差を認めたのはAf検出のリスク因子は, 年齢, PR間隔の2項目であった.

これらの項目によるAf検出リスク
A) 12ヶ月におけるAf検出リスク
B) 36ヶ月におけるAf検出リスク

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PR間隔というのは盲点、というか気にしたことはありませんでした.
今後ちょっと気をつけようと思います

2016年1月15日金曜日

造影剤腎症の予防: ERでは補液をしっかりしておけば良い

造影剤腎症の予防方法はいろいろある
詳細はこちらを参照: 造影剤腎症

ERにおいて, 緊急造影CTを必要とする成人症例を対象とした単一施設, 非盲検ランダム化比較試験 (ACADEMIC EMERGENCY MEDICINE 2014;21:616–622 © 2014)
患者はMehran risk scoreで中等度〜高度リスク群(>5pt)
・上記患者群をNAC群 vs NaHCO3群 vs NS群に割り付け, CIN発症率を比較.
 NAC群: 150mg/kg + 1L NS
 NaHCO3群: 150mEq + 1L NS
 NS群: 1L NS 
  上記を350ml/hで3時間継続した.
・造影剤は低浸透圧性造影剤を<100mL使用

母集団データ

アウトカム
CINリスクは3群で有意差なし.

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小規模、単一施設の非盲検RCTであるのが難点
待機的な造影検査ならば色々な予防を考慮しても良いかもしれないが, ERでの緊急造影検査などでは余裕はないことが多い.
とりあえず補液だけでもしっかりとする意識が重要.

2016年1月13日水曜日

便細菌叢移植療法で使用する便細菌叢は凍結保存が可能

以前難治性のClostridium difficile感染症において, 便移植が治療の1つとなり,
また効果も非常に期待できるというブログを書いた

Clostridium difficile関連下痢症(偽膜性腸炎)③: 治療 (2014/10/20 UpDate)


その便細菌叢は, 健康で, 感染症が除外されたドナーより,
移植当日に便を採取して作成する必要があるが, 
その作成した便細菌叢を-20度で凍結しても, 30日程度は混入している細菌量は維持されるという方報告がある.

そこで, 難治性, 再発性のCDI患者を対象としたDB-RCTにおいて, 便細菌叢移植療法を施行.
凍結保存した便細菌叢と生便細菌叢群に割り付け, 効果を比較した.
(JAMA. 2016;315(2):142-149. )
再発性は10日間の治療後 48h~8wkの間に再発した症例
 難治性は経口VCM 500mg qidを使用しても, 下痢が持続し
 発熱>38度, WBC>15000, 腹痛の1つ以上を認める患者で定義
・上記患者を, 新鮮な便細菌叢の移植療法と凍結した便細菌叢の移植療法群に割り付け, 効果を比較.
・凍結便細菌叢は-20度で30日間まで保存しても細菌叢の量は保たれるため, 凍結細菌叢は作成後〜30日までを使用期限とした.

母集団データ
便移植の回数

アウトカム
・双方とも7割以上の改善率があり, 凍結, 生便細菌叢移植群で効果は変わらない結果.
・サブ解析でもどの群でも効果は同等.
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難治性CDIや重症CDIにおける便細菌叢移植療法は非常に効果的な報告があるが,
便を使用するため、生物学的製剤という認識をした方が良い.
したがってドナーの状態の管理は重要であるし, 感染症のチェックも必要
しっかりとした適応を考えることも大事。

米国では, 便移植の適応を以下としている
再発例では,
・3回以上の軽度〜中等症のCDIで, 6-8wkのVCM taperingでも治療失敗した例.
・ 入院が必要なCDIを2回以上起こしており, ADL障害を来す例.
中等症のCDIで1wk以上のVCM, Fidaxomicin治療に反応しない例.
重症, 劇症CDIで通常の治療開始後48hで反応の無い例
(Clinical Infectious Diseases 2014;58(4):541–5)

いざ行おうと思っても, それからドナーの検査を行い、、、となるとなかなかハードルが高くなる.
その点、一度作成すれば1ヶ月は使用可能な凍結便常在菌叢はそのハードルを下げる.

例えば, 日本に1箇所そのようなセンターを作り,
ある程度の凍結細菌叢を常備し、依頼があれば販売する、というようなビジネスもできる?
ドナーの健康状態は細菌検査結果は公開が必要ですし、保険もきかないので自費。
それでも難治性CDIで困っている患者さんはそれなりにいると思うし、ニーズもあるのでは無いか?

例えば自分の親が難治性CDIで大腸切除とか、退院できなくなるリスクがあれば、凍結細菌叢に数万円くらいは払う。あくまでも個人的な話。

2016年1月12日火曜日

TTP/HUSとDICの鑑別ポイント

1月の京都GIMカンファレンスの症例の1つで,
発熱、意識障害、Labにて血小板減少, 貧血, LDH軽度上昇, 腎不全,,, という症例が提示された.
結局は劇症型肺炎球菌感染症 + SLE(ITP合併)であったが,
例えば自分が救急でこの患者を診察した場合, どうしてもTTPの鑑別が必要になると感じた.
(あまりディスカッションではその点は掘り下げられていなかったが...)

TTPでは早期の血漿交換が治療となり, 血漿交換をしない場合の致命率は90%と予後が悪い.
ところが, このDICなど, 同じような病状を呈する疾患もあるため, 診断が難しいことがある.

何か良い方法はないものか?

調べると1つだけ両者の鑑別をテーマとした論文があった.
(Am J Clin Pathol 2010;133:460-465)

27例のTTP/HUS患者と51例のDIC患者のデータを後ろ向きに比較.
・TTP/HUSは特発性が19例, 出産後が3例, SLEが2例, 薬剤性が1例, 乳癌既往, 膵癌既往がある例がそれぞれ1例.
・両群の基礎データ

両群の血液データの比較.
TTP-HUSではよりPLTが低く, PT, INR, aPTTの延長が少ない.
・FibrinogenやD-dimerは両者で有意差なし.
・LDHも両者で有意差はない.

PLT値, PTによるTTP/HUSとDICの鑑別.
PLT <2万/µLではTTP/HUSに対する特異度が高く,
・PTの延長が5秒未満ならばTTP/HUSに対する感度が高い結果.

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なるほど, DICはCoagulopathyであるため, 血小板低下もそうであるが, 凝固能も大きく障害される.
一方でTTP/HUSは血小板の低下がメインであり, 血小板の低下の割には, 比較的凝固能の障害は軽度という『感覚』がある.

この辺の絶妙な感覚が TTPっぽい、DICっぽいという印象に結び付けられるようになればよいのかもしれない.

で、実際京都GIMの症例のデータは,

Hb 11.7, PLT 2.4万, PT-INR 1.22, APTT 36.9s, D-dimer 5µg/mL
LDH 421, 他割愛.

あれ, PLTの低下の割には, 凝固障害はそこまできつくないぞ。。。?

ということで、背景にITPがあるともうダメですね.

まあ、普通のDICではないな、という感覚は重要かもしれません

2016年1月8日金曜日

薬剤性パーキンソン症候群: drug induced Parkinsonism(DIP)

薬剤性パーキンソン症候群: drug induced Parkinsonism(DIP)
(Postgrad Med J 2009;85:322–326.)(J Clin Neurol 2012;8:15-21)

薬剤性の運動障害には, Parkinsonism, tardive dyskinesia, tardive dystonia, akathisia, myoclonus, tremorなど多数ある
その中で薬剤性のParkinsonismは最も多い薬剤性運動障害の一つ
・DIPはパーキンソン症候群で2番目に多い原因(1番はPD)
・DIPと特発性PDは非常に臨床症状が類似しており, またDIPは高齢者で多いため, 両者の鑑別は困難なことが多い. 
 初期にPDと診断された6.8%がDIPであった報告もある.
・DIPのリスク因子は
 高齢(ドパミン濃度が低いため), 
 女性例(DIPの6-7割が女性例. エストロゲンがドパミンを抑制するためと言われているが, 実際は不明.)
 遺伝的な因子もあると言われている

薬剤性Parkinsonismの原因となる薬剤
(Postgrad Med J 2009;85:322–326.)
・主に抗精神病薬と抗うつ薬, 抗てんかん薬, 制吐剤, カルシウムch阻害薬.
・一般外来で注意が必要なのは, メトクロプラミドやスルピリド.


フランスのPharmacovigilance centerにおいて,1993-2009年の17年間で報告された, 薬剤性Parkinsonism, 薬剤で増悪したParkinson症状例を解析
(Mov Disord. 2011 Oct;26(12):2226-31.)
・20855例の薬剤副作用報告のうち, 薬剤によるParkinson症状の出現, 増悪は155例(0.7%)
 そのうちPDの増悪例は28例. 残りは薬剤による新規発症.
報告例の年齢分布
・高齢者で多いが20-30台でも増加している.
・女性例は60%

DIPの症状頻度
・筋固縮 78.7%, 安静時振戦 61.9%, アキネジア 56.8%
 これら3つの所見を伴うのは37.4%
・他にはジスキネジア 9%, アカシジア 3.9%, 起立性低血圧 0.6%, 無月経, 乳汁分泌 0.6%(1例)のみ.

原因薬剤

内服〜発症までの期間

・2つのピークがあり, 開始後0-3ヶ月が最も多く, 次に多いのが開始後>12ヶ月での発症.

薬剤性パーキンソン症候群(DIP)と特発性パーキンソン病(PD)の違い
DIPの特徴として, 両側性のパーキンソン症状を呈し, 姿勢時振戦が多いと言われている.
・特発性PDでは, 症状は片側性, 左右差があり, 安静時振戦となる.
(Postgrad Med J 2009;85:322–326.)

・ただし, 薬剤性でも30-50%は片側性, 安静時振戦となるため, 注意.
(J Clin Neurol 2012;8:15-21)

・症例報告では, DIPでは両側性が48% vs 特発性では7%  (Rev Neurol. 1998 Jul;27(155):35-9.)

97例のDIP症例と年齢を合わせた特発性PD 97例を比較したRetrospective study.
(Parkinsonism and Related Disorders 20 (2014) 738-742)
運動症状の比較 

・PDとDIPの運動症状はほぼ同じ.
・表情の消失はPDの方が多い.

所見の比較
・PIGD: postural instability-gait difficulty スコアはPDの方がより高値となる(重度)
・Asymmetry indexはPDの方が高い.

かといって, 明確に鑑別できるかというとなかなか厳しい.

DIPの対応
(J Clin Neurol 2012;8:15-21)
DIPでは原因薬剤の中止が重要.
・原疾患(統合失調症やうつ病)で中断ができない場合は, 非定型抗精神病薬などのDIPの原因にはなるものの,  比較的リスクが低い薬剤に変更する

薬剤中止後数週〜数カ月の経過でDIPは改善するが10-50%は中止後も症状は持続.
・経過により以下のタイプに分類される
 1) 中止後, 完全に改善し, その後も症状の出現がない
 2) 症状は持続するが, 増悪はない
 3) 症状が持続し, 増悪傾向となる
 4) 完全に改善するが, その後再発する
・1)のみが典型的なDIPであり, 他は背景にPDや類縁疾患があり, 薬剤の影響で, それまでマスクされていた症状が出現した可能性を考慮.